5月、テレビニュースで長野県で開催されている花と緑のフェスタの様子が紹介され、ヒマラヤの青いケシが展示されているという。標高四千b以上の氷河堆積面に咲くというミコノプシス・ホリデュラかと合点し、会場まで足を運んでみた。
しかし、展示されていたpale Blueのケシは、同じ青いケシでもミコノプシス・ホリデュラではなく、中国西南部に分布しているメコノプシス・ベトニキフォリアという種類で、解説員の方に伺ったところ、アントシアニンの色だというが、詳しいことを聞くことが出来なかった。しかし貴重な青いケシであることにはかわりがないので、係員にお願いして落花した花びらを頂いてきて、測定してみた。落花していた花弁で、咲いているときに比べて、ややくすんだ色になっていると思われるが、分光分布にはアントシアニンの特徴がでている。
アントシアニンには、ペラルゴニジン、シアニジン、及びデルフィニジンの3種類が有り、青い花にはデルフィニジンが含まれる。しかし、ケシの色素はシアニジンであり、一般に深紅色を呈するシアニジンがケシでなぜ青くなるのかはわかっていないという。
世界の三大切り花は、キク、バラ、及びカーネーションだという。そして、これらの花に共通しているのは、花色に青い色がないことである。ところが、フェスタの会場の片隅で、青いカーネーションが展示されている。当然、藍などで染色した物かと思い、確認したところペチュニアから取られたデルフィニジンの遺伝子を遺伝子組み替え技術によって信州大学で作られたバイオカーネーションだという。見た目の色は、マンセル記号で5PB〜7.5PB3/12に近く、母の日のカーネーションのイメージとのズレだろうか、漠然とした違和感がかんじられた。
バラでも、バイオテクノロジーによる青い花の開発が進められているが、まだ成功していないという。カーネーションなどと比べて、バラが原始的な植物であることに起因して居るとも言われる。Blue roseには『不可能、ありえないもの』という意味がある。最相氏の著書『青いバラ』によれば、日本のバラの父と言われる鈴木省三氏(故人)は、「青いバラが出来たとして、さて、それが本当に美しいとおもいますか」と語ったという。確かに、青いケシからは神秘的な美しさが感じられる。人間の手による200年以上の育種の歴史のなかで作り出すことがかなわなかった、5百億円市場とも予想される青いバラが、バイオテクノロジーによって作り出されたとき、その花を前に、どんな思いに駆られるのであろうか。 (岩槻スタジオ 測色資料担当)