東京を横切り田園が散見される首都圏では、3月を迎えると小綺麗な庭に植えられた庭木に花がほころび始める。今はやりのプランターに植えられた草花は、一年中とぎらすことなく様々な色の花を咲かせて心を和ましてくれるが、庭に植えられた木々は寒い冬の間、再び花を咲かせる春をじっと待ち、花をほころばせる時を待っている。花をほころばせる時がきて開いた花には、人工的に育種された草花とは違い、強烈な季節感と清々しさが感じられる。
春浅き頃の花の色は不思議と白が多く見られる。椿、木蓮、雪柳、小手鞠、花水木などの花が3月から5月初旬に次々と花を開かせる。
椿や花水木にはピンクや赤も見られるが白が目に付く。周りに鮮やかな色の無いところに白い花が咲き誇る様は、なにがしかの色が感じられて新鮮である。春を告げる代表的な花のひとつである桜と比べても遜色がない。
今回は、椿、木蓮及び花水木の花弁を無蛍光台紙の上に複数枚を重ねて並べて、台紙からの再反射光による影響を除いた状態で分光反射率を測定した結果を図に示した。
白い花色は、本誌114号で述べたようにフラボン・フラボノールという植物色素によって発色していることが知られている。3種類の分光反射率を見ると、500nm以下の短い波長域における穏やかな反射率の低下が特徴で、若干黄みを帯びた白(Yellowish
White)である。反射率の低下の違いは、色素量や花弁中の細胞の大きさ、花弁の厚さなどの違いによっている。
ところで、古代ギリシャでは、白(光)と黒(闇)はすべての色の根元としてとらえられ、白は黒と共に、色名としても原始的な言語として知られている。白は、様々な工業製品に用いられ、純白と生成色など自然な白が見直されるようになってきている。白には、鉛白、胡粉、アラバスター、アイボリーホワイト、パールホワイトなどの顔料や鉱石の名やスノウホワイト、乳白、ミルキーホワイトなどの色名が見られる。花色に由来するものにはリリーホワイトやオーキッド・チントなどが見られるが思ったより少ない。色として最も白いことを表すと言うことから、白や純白で済まされているようである。