<研究2部報> CIEDE2000色差式について(その6―明度の補正)
COLOR No.176掲載
前回は、色相のT関数による色相差の補正について解説した。今回は、「明度の補正」について、以下に示す対象の式を使い解説を行う。
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(式1) |
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(式2) |
背景の明度に応じて観察対象の色の知覚に変化が生じる「クリスプニング効果」に関する論文が、1966年Takasakiにより発表された。これは「背景と同等の明度では色の差が鋭敏に観察される効果」で、観察対象の色差を見わける場合、同程度の明度の背景で観察すると色差が見やすくなることを示すものである。「JIS標準色票」においては、色票観察用マスクとして黒・灰色・白の3種類があり、観察対象の明度に合わせて使い分けできるよう用意されており、この効果を確認できる。
クリスプニング効果の補正なしの例として図1に「CIE1976L*a*b*表色系における色差対の比較」を、補正ありの例として図2に「CIEDE2000色差式における色差対の比較」をそれぞれ示した。[低明度・中明度・高明度]の明度差による色差対は上下に配置され[中明度]は図1と図2で共通である。ここで、図1はCIE1976L*a*b*表色系における色差が∆E*76=5、図2はCIEDE2000色差式における色差が∆E00=5となるように設定した。
補正なしの図1は、両端の色差対である[低明度・高明度]が[中明度]に比較して色差が小さく観察されるが、補正ありの図2は、[低明度・中明度・高明度]とも色差がほぼ等しく観察される様に、両端の色差対の明度差が大きくなるよう色差補正されている。
図3は「平均明度と明度の重み付け関数SLの関係」を示すグラフである。水平な点線はSL=1で補正がない図1と同等なのを示している。V字形の実線はCIEDE2000色差式の(式2)による明度の重み付け関数SLを示すグラフで、SLの値は背景明度と同等のV字形中央で1、両端で最大値1.74が与えられ、観察背景の明度から離れるほど大きな色差補正が必要となることを示している。
「明度の補正」についてクリスプニング効果を取りあげ、観察背景の明度による色の見えの変化について今回解説した。色の見えは観察条件により変化するので、その設定は非常に重要であることが示された。次回は「観察条件」について解説する。
〈那須野 信行〉
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