<コラム> 白いタヌキ増殖中?
COLOR No.174掲載
前回に続いて、今回も「白」に関する話題です。
皆さんのお住いの近所でタヌキを見かけることはありませんか?中央アルプス山麓では、少し前から白いタヌキが頻繁に目撃されるようになったそうです。目の色が赤いことから、アルビノ表現型だということです。2017年に長野県飯田市に設置された害獣防除の捕獲器に一匹の白いタヌキが入り、飯田市立動物園に保護され「リュウ」と名付けられました。また、2014年に三重県松阪市で車に轢かれた白タヌキは大内山動物園で治療を受け、「ポン」と名付けられてそこで暮らしています。
京都大学の古賀教授らのグループがリュウのDNAを調べたところ1, 2)、リュウの遺伝子に欠落があり、メラニン色素を合成する酵素(チロシナーゼ)を正しく作ることができないので、白い体色になったことが分かりました。また、リュウの遺伝子の欠落は単純なものではなく、数回の変化が蓄積し、複雑な構造になったと考えられました。一方、「ポン」は体色も行動もリュウによく似ているので、こちらもチロシナーゼ遺伝子が変化していると考え調査してみると、確かに変化が認められました。しかも、リュウと同じ様相の変化で、塩基配列の解析でもぴったり同じ結果となりました。リュウの遺伝子の変化は複雑な構造となっていることは分かっていたので、これと全く同じ変化がポンの遺伝子に独立で生じることは遺伝学の常識からは考えられないそうです。ということは、リュウとポンには共通の祖先がいて、その祖先に生じた遺伝子の変化が子孫に受け継がれて、この2頭に伝わったと考えられるということです。飯田と松坂は直線距離で約170qですが、名古屋都市圏や地形を考えれば、遺伝子が世代を継いで長距離を移動し拡散したと言えそうです。ただ、メラニンが欠落した個体は紫外線に対する防御が弱い、視力低下が生じやすい、捕食者に見つかりやすい、といった弱点を持っています。それにも関わらず、この遺伝子が淘汰されずに長期間受け継がれて広域に広がったのはなぜでしょうか?一つはペットとして飼われていた個体が他の場所で放たれたり、荷物に紛れて人間によって運ばれたり、という可能性ですが、あまり現実的ではないそうです。もう一つは、残飯を食料にしたり、排水溝などをねぐらとしたり、都市環境を巧みに利用しながら適応することで、タヌキ個体間の生存競争が緩み、その結果として遺伝子上の弱点が軽減される可能性が大きいということです。
大内山動物園のHPで「ポン」の写真を見てみると、少し大きめの日本スピッツのようにも見えます。もっとも、タヌキはネコ目(食肉目)・イヌ亜目・イヌ科・タヌキ属の生き物ですから、イヌの親戚のようなものなので、ある種のイヌに似ていても不思議ではないのですが、それにしてもスピッツによく似ています。
ちなみに、タヌキは我々日本人にとっては、昔話などで馴染みが深く、今でも都内で目撃されるほど身近に感じられる存在ですが、自然分布域は日本を含む極東アジアに限定され、実は世界的に見れば「珍獣」ともいえる生き物だそうです3)。
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白いキジ
船橋で目撃された
個体ではありません |
「白い」といえば、先日私の住む地域の新聞に「白いキジ」目撃情報の記事が掲載されました4)。目撃写真の白いキジは、目の周りの赤い肉垂の形状からするとオスのようですが、少し離れたところにいれば白いニワトリ(レグホーン)にしか見えないかもしれません。
白いキジは昔から珍しく、吉兆の証とか。コロナ禍の先が見えない状況なので、近場に現れた吉兆を求めて白いキジを見に行こうかな。
Reference
1. Yamamoto, S., Murase, M., Miyazaki, M., Hayashi, S., & Koga, A., (2021).,A mutant gene for albino body color is widespread in natural populations of tanuki (Japanese raccoon dog)., Genes & Genetic System, 96, 33-39.
2. 中央アルプスと伊勢で発見された白いタヌキの体色変異の原因を解明―アルビノ遺伝子の哺乳類における広域拡散の初事例―, 2021, 京都大学
3. 「首都にすむ世界的珍獣」〜タヌキ, ナショナルジオグラフィック日本版. 2013年2月17日. (アーカイブ:オリジナルはリンク切れ)
4. 船橋北部で「白いキジ」目撃情報が話題 バードウォッチャーが連日集まる, 船橋経済新聞, 2021.05.16.
〈江森 敏夫〉
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