<巻頭言> 測色技術の歩み
COLOR No.164掲載
一般財団法人日本色彩研究所理事長 小松原 仁
故和田三造が、日本における色彩の標準化の必要性に着目し、1927年に(一財)日本色彩研究所の前身である「日本標準色協会」を創立してから89年になります。色彩の標準化に大きく貢献したCIE表色系が1931年に創られてから85年の節目になります。そこで、我が国における測色技術の歩みを振り返るとともに今後について考えてみたいと思います。
CIE表色系は、照明学会誌で「第8回万国照明委員会報告」として1932年にはじめて我が国に紹介され、同誌に「第8回照明委員会決議」が1934年に掲載されています。しかし、その原理や応用に関する情報が少なく1936年に出版されたHandbook of Colorimetryの翻訳版である「測色学」が1944年に刊行されてから、普及が進み始めたといえます。この動きに前後して工業品規格統一調査会が1938年に当時の商工省に設置され、1943年に「無彩色標準色票」、1946年に「色相標準色票」が制定され、1947年に出版されますが、この色票集の解説には、東京工業大学所有の色度計で測定した主波長が記載されており、当研究所の測色のスタートになっています。その後しばらくは東京工業試験所の分光光度計を利用させてもらう状況が続きましたが、1953年に日立製分光光度計が当研究所に設置され、測色に関する研究・調査が精力的に行われ、色彩研究にその成果が報告されています。分光光度計の技術開発もめざましく、当研究所では1972年と1988年に分光光度計を更新して、JIS準拠標準色票など色彩の標準化のために利用しています。
測色に関する標準化ではCIE Publ.No.15及びJIS Z 8722がありますが、いずれも、一照明方式/一受光方式による照明と受光の幾何条件が規定されています。色と光沢の光学的関係を考えるには、複数受光方式による測色が必要になることがあります。当研究所では1961年に光沢色票の開発研究を進める際に、国からの研究費補助金により複数照明方式/複数受光方式が可能な分光ゴニオフォトメータの開発を行っています。当時としては画期的な研究でしたが、分光ゴニオフォトメータの開発に関する報告は、残念なことに残されていません。
一照明方式/一受光方式による分光反射率の測定による測色技術は成熟期にありますが、画像技術の進歩に伴い、新しい測色技術の開発も進められています。CCDカメラで取り込んだ情報から、照明光の特性を分離して分光反射率を推定することによって、複数受光方式による測定が可能になり、三次元色彩画像を得ることができるようになり、色と光沢を含めたアピアランスの研究・調査に役立てられています。また、アルミフレークやパールなどの光輝材を用いた着色材が普及するようになり複数受光方式による色彩計も開発されるようになり、標準化も進められています。これからの測色技術は、色だけでなく、変角分光反射率計(分光ゴニオフォトメータ)や二方向反射率分布測定器による反射率の空間分布の測定による光沢感、透明感、つや感といったアピアランスの評価への応用に進んでいくことが予想されます。その端緒は、光輝材を用いた自動車塗装の外観評価に見ることができます。今後、当研究所でも取り組んでいく技術戦略の一つと考えています。
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