<研究1部報> 「黒猫」の悲劇
COLOR No.160掲載
今回はひとつエドガー・アラン・ポーの「黒猫」のような奇怪なお話を…というわけではありません。黒猫たちが里親に救われる機会が、他の色の猫よりも少ないというショッキングな報告*1です。
これはアメリカでの数値ですが、アニマル・シェルター(動物保護施設)や関連団体などの努力で減少しているとはいえ、安楽死させられている犬や猫の数は、400万頭とも全米の犬猫の3%とも言われています。
アニマル・シェルターに収容された犬の25%は里親の元に引き取られ、15%は飼い主と再会できますが、56%が安楽死されてしまいます。猫に至っては状況は更に厳しく、里親に引き取られるのは24%、飼い主と再会できるのはわずか2%ほどで、実に71%が安楽死させれています。
アニマル・シェルターのタイプや収容能力などによって保護された猫の収容期間は異なりますが、どのシェルターであっても、猫たちにとって理想的な環境とはいえず、ストレスの原因となります。ストレス下に置かれると、新たに病気を発病したり、再発したりしやすくなります。シェルターに収容されている日数が長くなるほど、猫は尿路感染症(URI)や上気道感染症(URTD)といった病気を発症しやすくなることが知られていています。
明らかに、シェルターで過ごす時間を短くすることは、猫たちの健康を保ち、結果的に新しい家族に引き取られる機会を増やすことになります。
シェルターの猫を家族として受け入れる決心に影響を与える要因には猫の性別、年齢、性格など様々なものが考えられますが、被毛の色は影響しているのでしょうか。Kogan et al. (2013)は、シェルターに収容された猫の被毛の色が、里親が決まるまでの日数に影響しているのかどうかを調べるため、コロラド州にある2つの動物保護施設、Dumb Friends League (DFL)とLarimer Humane Society (LHS)のデータを分析しました。LHSは子猫・成猫のデータが分析されましたが、DFLは技術的問題から子猫のデータだけが分析されました。その結果、その年令や性別に関わりなく、黒猫は里親が決まるまでの期間が最も長くかかってしまいました。次いで主に黒で他の色も入った猫が続きました。一方、他の色の猫は、黒猫や黒が主で他の色も入る猫に比べて、里親が決まるまでの日数は少なくて済みました。この結果は、シェルターのスタッフたちの“被毛の黒い動物たちの里親が決まりにくい”という感覚と一致していました。
表 アニマル・シェルターDFLとLHSでの1歳以下の子猫が
里親に引き取られるまでの平均日数(Mean)と標準偏差(SD)
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DFL
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LHS
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Mean
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SD
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Mean
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SD
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Black only
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24.27
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19.51
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Primary black with
other color(s)
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22.00
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19.44
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other color(s)
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22.43
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18.82
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Kogan(2013)より、1歳以下の子猫のオス・メス合計のみを抜粋して掲載。
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ポーの小説の一節「黒猫というものがみんな魔女が姿を変えたものだという、あの昔からの世間の言い伝えを、…」(エドガー・アラン・ポー・「黒猫」*2)の様な、黒猫に対するさまざまな迷信やネガティブなイメージによって敬遠されていることもあるのでしょう。
収容期間に限界があることを考えると、里親が決まらないことは、安楽死させられる可能性が高まることを意味します。“黒い”というだけで、救われる機会が失われるのは、何とも忍びない限りです。
それでは、我が国ではどうでしょうか。全国で殺処分されている犬や猫は10年前に比べて約30万頭以上減少しているものの、それでも2011年度で約18万頭(犬4.4万頭、猫13.8万頭)*3以上の命が失われています。Kogan et al. に類するデータは見つけられなかったので、日本での状況は分かりませんが、欧米ほどには黒猫に対するネガティブなイメージはないような気もします。日本では、「クロネコ」といえば某運送会社のロゴマークが思い浮かべられます。また、“魔女と黒猫”といえば1989年に映画化された「魔女の宅急便」(スタジオジブリ)に登場する「キキ」と「ジジ」という、何とも可愛らしいキャラクターを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。せめて日本では、黒猫も一匹でも多く救われることを祈るばかりです。
Reference
1. Kogan, L. R., Schoenfeld-Tacher, R. and Hellyer, P. W. Cats in Animal Shelters: Exploring the Common Perception that Black Cats Take Longer to Adopt. The Open Veterinary Science Journal, 2013, 7, 18-22
2. エドガー・アラン・ポー, 黒猫・黄金虫, 佐々木 直次郎 訳, 1951, 新潮社
3. “全国動物行政アンケート調査報告 平成23年度”, 家庭動物, 地球生物会議.
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