<研究1部報> オリンピック五輪マークの色
COLOR No.160掲載
9月8日、2020年の東京での夏季オリンピック・パラリンピックの開催が決まった。それからしばらくして、五輪マークの色の基準値に関する問い合わせを何件か頂いた。
確かに、ネットで検索しても色や形の意味や起源などの解説は見られるが、色の基準値にふれたものはない。
2012年のロンドン大会で色見本として用いられたことを示す記述とともにパントーン記号を記載した数行が目に留まった。パントーンは、ロット違いによる色差に目をつぶれば色再現の際に目視で判定するときの比較サンプルとはなり得るが、カラーシステムとして測色学的な基準値を持っているわけではないので、その記号は基準値を示すものではない。
ダウンロードした多くの五輪マークの画像から色値を拾ったが、ここからも基準値に結びつく結果は得られない。
1964年東京オリンピック五輪マークの色
ところが、1964年の東京オリンピックでは、J.O.C.から委嘱を受けたオリンピックマーク色彩委員会が、東京オリンピックで使用する五輪マークの色について様々な検討を重ねてその基準値を定めている*1。ここでその検討経過の概要と結果を紹介する。
〈基準色選定の目的〉
目的は「オリンピック東京大会を美しく品位あるものするために、五輪マークの色彩が不統一にならないようにすることである。」として、その色の選定にあたっては、「I.O.C.の定めるオリンピックマークの色彩は、白地に青、黄、黒、緑、赤の五輪を組み合わせたものとなっている。これらの色名範囲で最も適切な色を選び、それを基準として…」とある。
〈基準色選定の根拠〉
根拠として以下の3点をあげている。
- 白地の上の5色の組み合わせにおいて、それぞれの色の目に訴える力が同じ価値を持っていて、マークとしての視覚伝達が最も明確にされ得る色を選ぶ。
- 5色の組み合わせに調和とバランスを保つ色を選ぶこととする。
- 染色、塗装、印刷など、いかなる表現手段による場合にも、比較的堅ろうに容易に表現しうる色彩を選ぶこととする。
〈選定色の調整〉
マークの5色について、各色の視覚的特性を考慮し、ビジュアルコミュニケーションとしてバランスのとれたマークとなるよう微調整を行っている。
- 黄色は白地との明度コントラストが小さいので、明度をやや下げる必要があった。
- 黄色の明度をやや落とすために少し赤みに、緑みの明度をやや上げるために少し黄みに寄せた。
- 相接する色は不調和とならないような明度の差を考慮した。緑をやや黄みに寄せ明るくし、赤との間に明度差をつけて調和を図った。
以上のような検討を経て最終的に下記の基準値を設定している。
色名
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基準色
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色見本の許容限界
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色相範囲
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明度範囲
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彩度範囲
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青
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1PB 4/11
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10B〜2PB
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3.5〜4.5
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8.0より大
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黄
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3Y 8/14
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2Y〜4Y
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7.5〜8.5
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13.0より大
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黒
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N1
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0.5〜2.0
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0.5以下
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緑
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3G 5.5/9
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2G〜4G
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5.0〜6.0
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7.5以上
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赤
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6R 4/15
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5R〜7R
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3.5〜4.5
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10.0より大
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なお、前述したロンドンオリンピックの色見本として記載のあったパントーンについて、指定色の色チップを測定した結果をL*a*b*値とマンセル値で下に示す。
色名
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PANTON
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測色値(L*a*b*)
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変換マンセル値
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L*値
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a*値
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b*値
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青
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3005C
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45.92
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-12.32
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-51.48
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1.2PB 4.5/13.2
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黄
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137C
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75.21
|
26.02
|
74.02
|
7.2YR 7.5/12.8
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黒
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426C
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21.08
|
0.8
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-1.26
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1.2P 2.1/0.3
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緑
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355C
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51.41
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-63.21
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32.84
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1.9G 5/12.2
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赤
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192C
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50.26
|
70.64
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25.62
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3.4R 5/16.3
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(測定値「L*a*b*」提供:株式会社中川ケミカル)
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ここで上げた色値がそれぞれの大会に用いられたものとして、昨年の五輪マークの有彩色4色について48年前の東京大会と比較してその特徴をまとめてみた。
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1964年
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2012年
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2012年の特徴
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青
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1PB 4/11
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1.2PB 4.5/13.2
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やや明るく、鮮やか
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黄
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3Y 8/14
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7.2YR 7.5/12.8
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赤みに寄り、やや暗い
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緑
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3G 5.5/9
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1.9G 5/12.2
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黄みに寄り、やや暗く、鮮やか
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赤
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6R 4/15
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3.4R 5/16.3
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紫みに寄り、明るく、鮮やか
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1964年東京大会では赤と緑に明度差をつけていたが、2012年は同明度である。各色のマンセル値をsRGB、adobeRGBに変換した値はホームページに記載している。
*1和田三造, オリンピックマークの色彩選定について, 色彩研究, 1963, Vol. 10, No. 2
〈赤木 重文〉
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