<研究1部報> 平成24年度文部科学省委託事業「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業〈クリエイティブ分野の中核的人材養成におけるモデルカリキュラムの開発と評価〉」の取組について
COLOR No.159掲載
文部科学省生涯学習政策局から公募のあった標記事業に、「デザイン視点によるプロダクトマネジメント」のテーマで、当研究所が企画立案し女子美術大学を代表機関として応募した。8月下旬に採用通知を頂いたので、9月21日に第1回委員会を開催し、そこから本格的に事業の取り組みを開始した。 構成機関16機関、協力者5名、インタビュー協力7機関、アンケート回答教育機関33校、検証講座受入機関2機関、当研究所研究員以外のシラバス・テキスト執筆協力者は8名である。
本稿ではその取り組み概要を紹介する。
事業の目的
かつて、日本は工業製品製造においては常に世界のトップを走ってきた。しかし、近年その潮流は大きく変わり、日本発の製品は世界の消費者から受け入れられなくなり、海外に市場をもつ多くの大企業が低迷している。それに伴い製造業における就業人口は著しい減少傾向にあり、平成19年から平成22年で116万人減少し、ピーク年には1,569万人(平成4年)の就業者であったが、平成24年12月にはついに1,000万人を割り込んでしまった(総務省「労働力調査」より)。製造業の復興は、雇用人口および日本経済を回復させる鍵となる。
日本の製造業が国際競争力を取り戻し、さらに就業人口を回復させるには、的確な情報の収集や情報の共有化、さらにその情報を最大限生かすことのできる社内体制の確立が必要である。これまで行われてきた工場誘致などハード面のインフラ整備から、消費者ニーズを汲みあげたものづくり手法の構築などソフト面整備への転換を迫られている。製造業における時代のニーズにこたえる製品開発手法の構築と人材育成は急務である。
本事業の目的は、この変革の道筋をつけることと、新しいプロセスによる製造業務を推進していく人材を養成するためのカリキュラムおよびツールを開発することである。
事業の概要
本事業では、製品製造における主要な業務をその内容によって大きく4工程に分類した。この4種類の工程のすべてに対応する部署をもつメーカーもあれば、1〜2種類の工程を外注するメーカーもある。ただ、一つのプロジェクトにおける成果の良否は、それぞれの工程における作業の出来栄えに依存するだけではなく、各工程間の正確で迅速なリレーショによることは明らかである。
4種類の工程は以下のとおりである。
- 製品開発の要件を実験や調査によって抽出する「リサーチ」
- 製品の形状・色・素材等の詳細を立案し設計する「プランニング」
- 製造から製品管理を担う「プロダクト」
- 広告を含めて販売促進活動や営業活動を行う「プロモーション」
これらのステージは図のように循環性をもつことによって、デザイン性や機能性さらにはコスト面においても消費者ニーズに応えつつ、よりグレードの高い製品へと成長していくと考えられる。
そのためには各ステージを見通したマネジメントが必要であり、その際製品価値の創造に最も関与の大きい「デザイン」の視点によるマネジメントが有効であると考えられる。このデザイン視点によるマネジメントにおける各ステージの役割を端的にまとめると、「リサーチ」においては消費者のデザインニーズを把握することであり、「プロダクト」はデザイン要件などの出荷基準を満たす製品の製造、また「プロモーション」は製品の魅力を消費者に向けて告知すること、さらに、このサイクルが「プランニング」に求めることは、客観的データを活用することにより製品開発の要件を満足させる設計を行うことである。
この考え方を製品製造の有効なシステムとして捉え、本事業では各ステージで共通に使用できるツールや手法を整備し、このシステムを具体的に推進できる人材を養成するための教育プログラムを開発する。
部署間の情報交換を促し、各部署の取り組みの方向性を調整する役割を果たすマネージャーの養成であるが、職種を新設し細分化するのではなく、リサーチ、デザイン、製造(管理)、セールスプロモーションのいずれかの部署に所属しながらも、全部門における業務遂行の知識や技能について熟知し、消費者の様々な要望に沿った製品開発を目的とした企業プロジェクトに参加する人材の養成が目標である。
カリキュラム開発のフロー
@目的
A関連情報の収集
専門学校関連学科アンケート
大学関連学科カリキュラムHP検索
企業団体インタビュー調査
Bカリキュラム基本方針の策定
教科プログラムの方針と構成
マネジメントツールの方針策定
Cカリキュラムの詳細設計
教科の詳細設計
マネジメントツールの詳細設計
D検証講座
デザイン教育履修者に対する講座
企業の各部署の就業者に対するデザイン講座
E評価
Fカリキュラム修正と今後の課題
本事業の成果
カリキュラム開発のフローに沿って各ステップの作業を進め、下記の成果を得た。
@カリキュラム開発が目標とする人材と設定講座の構成
A教科詳細設計
〈科目別授業計画書及び評価基準の作成〉
20の科目をカリキュラム構成教科として設定した。そのうち19の科目について授業計画書を作成し、さらに各科目とも単元ごとにそれぞれの達成目標と評価基準を作成した。
〈テキストの作成〉
17の科目についてテキストを作成した。
〈設定科目一覧〉
デザイン関連講座[基礎]
構成演習、色彩、テクスチャー論、ドローイング、CG演習
デザイン関連講座[プロダクトデザイン]
プロダクトデザイン概論、プロダクトデザイン演習
リサーチ関連講座[基礎]
感性科学概論、調査分析手法、人間工学概論
リサーチ関連講座[演習]
マーケティングリサーチ、人間工学演習
プロダクト関連講座[基礎]
製造技術論、感性工学と外観検査
プロダクト関連講座[基礎]
外観検査の実際
セールスプロモーション関連講座[基礎]
プレゼンテーション資料の作り方
セールスプロモーション関連講座[演習]
プレゼンテーションの実際
総合講座[基礎]
コミュニケーション概論
総合講座[応用]
ブランディング概論、パテント
Bマネジメントツールの設計
マネジメントツールとして「カラーシステム」「質感スケール」の2種類について、プロダクトマネジメントにおける役割および構成を明確にした。
今後の課題
平成24年度積み残した開発結果を修正補完し、平成25年度は具体的な運用へと舵を切りたい。今後予定している課題は以下のとおりである。
@追加検証講座によるカリキュラム修正
A質感スケールの改良に向けた取り組み
Bカリキュラム運用のシステム検討・確立
C第三者評価等の制度整備
D学び直しプログラムの検討、など
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