もはや旧聞に属する記事ですが、「色覚異常のリスザル2匹に遺伝子治療を施すことで、正常な色覚を持たせることに成功した」とワシントン大学などの研究チームが2009/09/16のNature誌に発表しました。
遺伝子治療を受けたのはオスの成体のリスザル、ドルトンとサム。
もちろん、ドルトンはイギリスの化学者ジョン・ドルトン*1に由来していることは言うまでもありませんが、サムの方は…。彼らは、赤い光を感知する視物質の遺伝子(the L-opsin gene)が欠如しており、そのため人間でも最も多い先天性赤緑色覚異常の症状を示していました。研究チームは赤い光を感知する視物質の遺伝子をウィルスに組み込んで、ドルトンたちに感染させることで、彼らの網膜の錐体に遺伝子を送り込むことに成功しました。この遺伝子治療の19週間後、ドルトンたちは赤と緑を識別できるようになり、その状態が2年以上続いたということです。
この方法を人間に応用するのは時期尚早かもしれませんが、この研究を行った研究チームのジェイ・ナイツ(Jay Neitz)は同じ治療法が現段階でも人間にも可能と考えているようです。
一般に視覚は幼少時の臨界期に発達し、その時期を逃すと正常に発達しないと考えれれていますが、成体のリスザルが新しい色覚を獲得することに成功したことは画期的な事といえます。
ドルトンたちの網膜から大脳視覚野に送られるメッセージは治療により変化しましたが、脳は既存構造のままで変化に対応することができました。
この研究は、成体の視覚システムの柔軟性を示すと共に、今まで治療不能と考えられていた先天性の色覚異常の治療に新たな希望を与えることになりそうです。
REFERENCES
1. “サルの色覚異常、遺伝子注入で治療”, ナショナルジオグラフィック ニュース, Septenber 17, 2009
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=53174378
2. “With Genetic Gift, 2 Monkeys Are Viewing a More Colorful World” , The New York Times, September 21, 2009
http://www.nytimes.com/2009/09/22/science/22gene.html
<研究第1部 江森 敏夫>
イギリスの化学者で、原子説を提唱したことで知られています。1794年に自身の色覚の異常の詳細な報告したことに因んで、色覚異常はドルトニズム(Daltonism)とも呼ばれることもあります。