昨年12月、財団法人日本ファッション協会はインドのデリーとムンバイに暮らす多くの若者を対象とし、色彩意識調査を行いました。日本色彩研究所はデータ分析を担当し、調査レポートは「インドの色彩意識調査」として先月に同協会からCD-ROM版が発行されています。
(詳細は協会HP、http://www.jafca.org/acc/を参照のこと)
以下に、インドの若者にみられた色彩意識の特徴の一つと不思議に感じた調査結果をご紹介します。
好き嫌いの対象となる色は原色と白黒
好きな色の上位は男女で同じで、黒、赤、白、青の順でした。4色への嗜好集中はとても顕著です。好まれるトーンは圧倒的にビビッドトーン、色相では赤と青です。 反対に嫌いな色をみると、黄、赤、金、赤紫、黒などの目立つ色であり、最も嫌われたトーンはビビッドトーン、次いでダークトーンとなっています。お読みになって気づかれたかと思いますが、好きと嫌いのどちらにもビビッドトーンが1位に入っていますね。これはインド独自の結果です。 例えば日本の場合、好き嫌いの傾向により色は次の4タイプに分類できます。多くの人から好まれて嫌われにくい青白緑(嗜好型)、逆に嫌いな人が多く好きな人がいないオリーブとブラウン(嫌悪型)、 好きと嫌いが共に多い赤と黒(両価型)、そして好きとも嫌いとも言われないライトグレイッシュトーンなど(無関心型)です。どうやら、インドにおいて好き嫌いの対象となる色は鮮やかな原色であり、 そうでない色調はあまり好き嫌いの対象とはならない(無関心型)とみることができそうです。その傾向はより男性に顕著で、男性の場合、嗜好率と嫌悪率の相関係数は0.653と高い相関となっています。 また、女性は男性よりもピンクを好む傾向はみられますが、色の好き嫌いについての性差は、日中韓ロシアと比較すると小さいといえそうです。
黄色が嫌われた謎
黄色が非常に嫌われたのは謎です。黄色は仏教僧の袈裟の色です。ヒンドゥー教の僧侶や行者も赤味の強い黄色の衣をまとい、薬や調味料になるウコンの色であり、菜種油のもとになる菜の花の色です。尊敬される色、暮らしに大事な色と評価されるはずです。インド在住の大学院留学生に聞いても、インドで黄色が嫌われる理由は思いつかないという答が返ってきましたが、もしかすると次のような可能性はあるかもしれないと話してくれました。インドではテロが多発しています。実行犯はヒンドゥー教至上主義の右派団体であり、そのテーマカラーはサフランイエローと呼ばれる赤みの黄色です。ネットで調べると、本調査の2週間ほど前にムンバイで同時多発テロがあったことがわかりました。外国人向けのホテルや駅などが銃撃爆破され多くの人が人質あるいは殺害された事件です。実行犯の一人が捕まり、右手にはオレンジ色のバンド(ダーガーという)を結んでいた写真があります(これはヒンドゥー教右派の仕業と見せかけるための工作という説あり)。こうした出来事が黄色に対するネガティブな印象を強めた原因の一つと考えることはできるかもしれません。
真っ赤な冷蔵庫
韓国での調査では、赤い炊飯器が所有率3割以上で次に欲しい色としてもトップであり(Color142号に報告済み)、これには結構多くの方がショックを受けたようです。そして今回のインドでは、冷蔵庫の所有色も欲しい色も赤がトップとなりました。他の家電は白、黒、グレイ、シルバーなのに、これも謎です。
将来の巨大市場として注目されているインド。21世紀は中国とインドとが、経済、ビジネスをリードするという予測から、Chindiaの時代という言葉も作られています。インドでは今回明らかにされたように根強い原色嗜好(志向)が確認されました。さまざまな商品の色は、これからインドの中でどのような展開をみせていくのでしょうか。鮮やかな色の中の微妙な色相違い、質感と色との組合せなどが重要になるのではないでしょうか。 <研究第1部 名取和幸>