社会情勢の変化に伴い、様々な分野に渡って環境負荷の低減と安全・安心に注目が集まっている。作業空間における照明のあり方についても同様であり、屋内、屋外及び作業全般に必要となる照明基準の規格化が進められている。規格化にあたっては、照明の質の維持と省エネとをいかに両立させるかが議論されている。
一方、LEDや有機ELといった省電力効果が期待される新光源の開発によって、白熱電球の製造中止が宣言され、電球形蛍光ランプや高効率蛍光ランプへの切り替えが提案されている。3月初旬に開催されたライティングフェア2009では、「高い環境性能と省エネ」をうたった「人に地球に・・・やさしいあかり」がテーマになっている。その展示を見た際の雑感を少し書いてみたい。
会場では、LEDをモジュール化した住宅照明への様々な展開例が紹介されていた。LEDは小さな光源であり、単体では一般照明用に利用できないため、一つの照明器具に数十個のLEDを使用する必要がある。また、LEDは高輝度であることから、広い範囲を照明するにはプリズム型や拡散型のパネルを組み合わせて低輝度・拡散照明にして用いる例が多い。従来の蛍光灯器具のように部屋の天井に取り付けて照明するプリズム型のパネルを用いた器具が多く展示されていた。しかし、効率をできるたけ落とさないようにという配慮からか、個々の光源像が透けて見えるものがあり(図1)、まだ眩しさや意匠性の改良が必要と感じられた。従来の蛍光灯器具に置き換えるという発想ではなく、LEDの特徴を生かしたダウンライトやスポットライトを多用した例は、かなり洗練されており、数年の間に一般的に用いられるようになると思われる。
また、導光板と組み合わせた照明器具(図2)を見た感じでは、意匠性及び拡散性にも優れており、導光板の改良によって効率が改善されることが期待されることから、LEDを利用した器具の方向性を示していると思われる。器具の左右にLEDを取り付けた器具と蛍光灯器具とを比較した消費電力は約50%になると紹介している展示もあり、環境負荷の低減という面では有効であることは言うまでもない。しかし、一般照明用として普及が進むためには、さらなる光源の改良とともにLEDの特徴を生かした照明デザイン手法の開発が必要と感じた。
安全・安心という面で注目されている照明として、青色街路灯の例がある。青色街路灯は2000年にイギリス北部のグラスゴー市の例から、その防犯効果が注目され、2005年に奈良県ではじめて設置された。現在は、奈良県、島根県、岡山県など全国の自治体に広がっている。奈良県の調査では、導入前後1年間の刑法犯発生比率を比較すると、発生件数が約15%減少したことから、防犯効果があるとしている。しかし、発生件数が減少した例では、住民が防犯活動に積極的に取り組んでおり、そうでない自治体では発生件数が増加した例も報告されている。青には気持ちを落ち着かせる働きがあるとして、防犯効果に結びつける意見がある。しかし、青色街路灯の異様さを考えると、街路灯を変えることによって、住民の防犯意識を高める効果があるとする意見が正しいように思える。
新光源の開発や改良による省エネ、環境照明による安全・安心の実現への取組みは、今後も続けられていくと考えられるが、これまでの器具との互換性にとどまらず、新しい照明デザイン手法による実効的な利用という課題への取組みが必要と思われる。(小松原 仁)