配色イメージには様々なものがあるが、それぞれのイメージの配色を作り上げるための基本的なルールは確立されているとはいえない。そこで、配色イメージと色彩構成との関係を検討するために、日本色彩研究所は、社)全国服飾教育者連合会(AFT)と共同で、配色イメージに関する系統的な研究を本年2月〜6月にかけて行った。
5月に行なった最終の配色イメージ調査では、まず12種の基本的な配色イメージワードを用意し、それぞれに対応すると思われる配色を色彩専門家に数多く制作してもらった。作られた多くの配色を一般の回答者に並べて見せ、その中から、例えば「カジュアル」な感じを受けるものをすべて選択させた。調査は東京大阪の20〜50代男女、計576名を対象とし、インターネットにより行った。評価に用いた配色は、正方形を3×3の領域に分割し、市松模様のように4色に塗り分けをして作られた全72種である。イメージワードは12語を用意した。
色彩学のテキストなどで、ナチュラルな配色といえば、ベージュやブラウン系や黄緑などの、YR系からGY系までの色を中心とした色を組合せたものであり、穏やかでくつろげるイメージが感じられるとされていると思う。確かに、今回の調査においてもそうした「ナチュラルな配色」は多くの人から選ばれていた。しかしながらそれよりもさらに多くの人が「ナチュラルな配色」として選んだのは、薄い水色と白、緑と白、水色と緑と白などを組み合わせた、さわかかで瑞々しく、若やいで透明感のある配色であった。
「ナチュラル」というイメージワードは、特にインテリアやファッションの分野でよく使用されている。
大地や木や砂、生成りの布、植物といった、自然界での出現頻度の高いYR系をメインにしてGY系が加わるとされる。対して、今回多くの現代日本人が選んだナチュラルな感じの配色は、水、新緑、ミントなど、さわやかな緑から青緑系のティントトーンの色から構成されていた。こちらはTV-CMなどの広告戦略にしばしば登場するイメージとしての「ナチュラル」といえる。
ここで、従来のおだやかなナチュラルを「ウォームナチュラル」、今回のさわやかなナチュラルを「フレッシュナチュラル」と呼んでみることにした。下図にそれぞれの基本的な配色にみられる色相とトーンの範囲を、ベースカラーとアソート・アクセントカラーに分けて示す。
「ウォームナチュラル」はYR系からイエロー系、及びイエローグリーン系までの範囲の、山や田園にみられるような色が用いられている。ベースカラーはペールトーンやライトグレイッシュトーンで、アソートやアクセントとしてダルトーンやソフトトーンなどが組み合わされ、穏やかな印象が生まれている。
一方、「フレッシュナチュラル」は、「ウォームナチュラル」の色相範囲から大地のYR系を除き、イエロー、イエローグリーン系に、透明な水をイメージさせるブルーグリーン系が追加される。これらの色相のティントトーンと白とを組合せるなどして、明暗のコントラストが比較的高い。
現在の街には空き地がなくなり、道端の土も目につきにくくなった。自然を感じさせるものといえば手を汚す土よりは、風にふかれる新緑なのかもしれない。そして今、現代人が最もナチュラルな感じを受ける色は、もっぱらテレビなどの映像(イメージ)の中で見る、清らかな水を連想させるアクアカラーとなったのであろう。
<研究第1部 名取和幸>