昨年度、福井県小浜市から市全域を対象にした景観色彩基本計画の策定業務を依頼され、約1年間にわたって調査から基本計画の立案までを実施しました。
小浜市といえば、拉致事件で一躍知名度の上がったまちです。
業務に着手したときは、知り合いに小浜の話をすると「それはどこにあるの?」という反応がほとんどでしたが、拉致事件に関する一部始終が連日報道されるようになると、「小浜市では景観行政もしっかりやっているんだね。」とか「小浜は結構歴史的にも古いまちなんですね。」という反応が帰ってくるようになり、改めて小浜の地図まで説明する必要はなくなりました。
ただ小浜の古い歴史を説明すると、拉致事件とのギャップに驚かれる方が多いのも、私が小浜を知る前後の認識の違いを考えると、納得させられるところです。
市内には重文級の寺社や文化財が点在し、はなやかに栄えた往年の文化の面影が残っています。また古来、天皇家の食膳に供する海産物などを献上する国「御食国(みけつくに)」であり、その新鮮で豊富な食材と多彩な食文化は、現在のまちにも息づいています。
小浜市では、数年前からまちづくりの基本構想について検討が行なわれていましたが、新しいものを外から導入して一気呵成につくりあげるのではなく、歴史や伝統の蓄積のうえに現在も生活の中に生き続ける地域的特性を育成し、それをまちづくりの資源としていこうという方針が打ち出されました。
そのテーマが「御食国(みけつくに)」であり、それを歴史的バックボーンとして「食のまちづくり」の基本構想が立ち上がりました。
平成13年4月には第4次小浜市総合計画が、5月に小浜市都市計画マスタープランが発表されました。さらに9月には「食のまちづくり条例」を制定し、現在この条例に基づいてまちづくりの施策が推進されています。
今回の業務「おばま景観色彩基本計画」も、この「食のまちづくり」の一環としと策定したものです。
まちづくり施策の第1段階として、小浜漁港に面する産業地域に拠点地区の開発が進められています。開発にあたっては、駅前や商店街との関係をまちづくり全体計画の視点で明確にする必要があります。車や人の流れをコントロールしていく配置計画や、景観の基本計画など様々な切り口から進めていく必要があります。
「おばま景観色彩基本計画」は、色彩を活用して「食のまちづくり」における景観の基盤整備をおこなうものです。 まちづくりは、生活者と来訪者の2つの視点にたっておこなわれています。生活者にとっては、やすらぎを覚え、誇りをもって生活できる郷土を育むことであり、そのやすらぎと誇りは、来訪者にとって、その地域特有の魅力として感受されます。
このまちづくりの目的を達成するために、景観色彩の立場から支援するのが景観色彩基本計画です。
以上の流れを踏まえて、本業務を進めていきましたが、その概要を報告書から抜粋して紹介いたします。
(研究第1部部長 赤木重文)