一般財団法人日本色彩研究所

<研究2部報>テニスボール

pen COLOR No.168掲載

今回は所内のテニス好きから依頼があったのでテニスボールの黄色を測色してみた。
テニスボールの色は白と黄色があるそうだ。卓球には白とオレンジがあるそうだ。テニスの黄色も卓球のオレンジも視認性をあげるために選ばれた色らしい。受け取ったボールは黄色というよりは黄緑色。見るからに蛍光色。しかも毛むくじゃら。勝手に想像していたつるっとしたボールは軟式用か。蛍光色、毛むくじゃら、球面。測色に不向きな特徴の3点セットときた。蛍光色の測定は定番通り照明光のUVをON/OFF切り替えて測定し比較するとして、毛むくじゃらはどうするか。密度はさほど高くないし、深さも3mm程度でかき分ければ下地が見えそうだが糸の形状からなのか下地は見えない。試しに一個割ってみると内側はベージュ色のゴム状素材であった。透けるとすれば下地はベージュ色ということを確認したが試料の構造までは変えられないのでそのまま測定することとした。テニスボールの直径は7cm弱の球体。いつもの20mm径での測定だと3mm近く積分球内に飛び出すが12mm径で測定すれば計算上は0.7mmなので我慢しよう。
測定器は日本電色製のSD7000を使用した。この色彩計は白色光照明の後分光タイプで、照明光のUV成分をカットするフイルタをON/OFFできるので蛍光物質の励起光であるUVを制御できる。
ボールはB社、H社、S社の3点。目視上はほぼ同じ黄緑色。測定結果を表1、図1に示す。

試料UVL*a*b*C*Hab°
B96.1-31.1100.4105.1107.2
H92.2-27.3100.3104.0105.2
S93.2-30.196.1100.6107.4
B101.1-40.8104.0111.7111.4
H96.8-36.1103.9110.0109.1
S97.6-38.998.6106.0111.5
表1 測色結果(D65,10°)

表1の測色値を見るとL*が90以上かつC*が100程度と当然ではあるが物体色では考えられない値となった。明度を考慮しなければマンセル色相5GY程度の黄緑を示していて目視とほぼ一致する。

図1 分光反射率

図1から3点は同様の発色材を使用していると思われる。またUVをカットすると395nm以下の反射光が無くなるのがわかる。さらに500~580nmにかけて反射率が100%を超えているは本来の反射光に蛍光が上乗せされたことによるものである。UVをカットすることによってその程度は下がるがそれでも100%を超えていることからUV以外の励起光が存在すると考えることができ、おそらく500nm以下の青色光が励起光と推測する。このことから今回のテニスボールはUVや青色光を含む昼光や水銀灯、LEDなどほとんどの照明光では蛍光が発生し黄緑色に見えて、夕焼けや白熱電灯下では黄色に見ると考えられる。

〈小林 信治〉