一般財団法人日本色彩研究所

<研究1部報>色研セミナー「キッズデザインと色彩」より-視覚に関する乳児の脳機能の発達-

pen COLOR No.168掲載

毎年、色研では様々なテーマのセミナーを開催しています。昨年度の最後に行いましたのは「キッズデザインと色彩」でした(2/23開催)。『最新の研究成果から商品作りの実践まで』と題して、4人の講演と質疑応答が行われました。内容は、(1)色の把握における知覚・認知・感情に関する問題整理と小学生に対する色の好き嫌い調査の報告、(2)教具の設計者によるデザイナー視点からのモノづくりの注意や製品紹介、(3)乳児を対象とした脳研究などから明らかになった最新の知見、そして(4)ベネッセコーポレーションの教具担当者による企画、開発、製造についてのより実践的なお話、というものでした。

本項では、そのうち、?の山口真美先生(中央大学)による「赤ちゃんが好きなもの、赤ちゃんが好きな色~赤ちゃん学からわかったこと」のお話しについての要点と感想を述べたいと思います。

赤ちゃんは彩度の高い純色が好き

色々な色の中で赤ちゃんが見続ける時間が長いのは純色の赤や青。緑はあまり見てもらえないことや、赤ちゃん服の色としてよく使用されるピンクは赤ちゃんが最も注視しない色でした(Brownら2013)。

知覚レベルの発達が脳の発達に大事

視覚野のシナプスの数は2~8ヶ月にかけて急速に増加し、それ以降は減少します(Huttenlocherら1982)。認識能力の成立は、動きが2ヶ月,色の見分けが4ヶ月,形が5ヶ月,立体が7~8ヶ月頃。母子関係を通した社会性の発達は重要ですが、知覚能力を統合することが脳の発達のキー(山口ラボ)。

5~7ヶ月の赤ちゃんは青と緑を区別している

山口先生のチームでは、2つの異なる色を順々に見せた際の乳児の脳の血流変化を測定されました。ここで血流の増加は別の色として認識していることを表します。結果、血流が増えたのは、成人が青と緑とに分ける境界にまたがる2色を赤ちゃんに順番に見た場合。緑の中の色相の違いでは血流は変化しませんでした。また、明るさや彩度を変えても血流変化はありませんでした。言語獲得前の生後半年くらいの赤ちゃんが既に緑と青を分類していることが、脳活動の変化を証拠として世界で初めて明らかにされました(Yangら2017)。
→日本では青りんご、青菜、青田刈り、青蛙など、実際は緑色に知覚されるものを青と呼ぶ。世界的にもgreenとblueの範囲を一つの言葉で呼ぶ言語は多い。色を分類する仕組みを早期に獲得していても、かつての暮らしの中では中・短波長側の色を言い分ける必要性が昔は低かったのかもしれない(名取)。

7, 8ヶ月の赤ちゃんは金色が好き

黄色と緑、あるいはそれに光沢を与えた金色とメタリックグリーンのペアを、赤ちゃんにそれぞれ並べて見せたところ、5、6ヶ月児ではいずれも見る時間に違いがみられませんでした。それが7、8ヶ月になると、メタリックグリーンよりも金色をとてもよく見ることがわかりました。また構成色は同じままで、金色には見えないようにハイライトの位置をずらしてしまうと、注視時間に違いはみられなくなってしまいました(Yangら2015)。
→色研による2009年、11年、14年の調査では、小学校2年生の男子が金色を圧倒的に好むという結果が得られている。小学校低学年の男子も赤ちゃん同様にピカピカと輝く金が好きである。そこにさらに、金のもつ意味(1番;金メダル、高価:金貨やお金)が加えられて、金色が好まれているのであると思われる(名取)。

本講演では、最先端の研究成果をわかりやすくご解説いただきました。また、研究成果が赤ちゃんの好きな色を使った絵本や、表面がごつごつとして、きらきら光り、くねくね転がる触覚おもちゃづくりに生かされていることを知りました。そして、これからも研究や調査と製品づくりをつなげるようなセミナーを企画したいとの思いを強くしました。

〈名取 和幸〉