一般財団法人日本色彩研究所

<資料>道路景観と車の色

pen COLOR No.156掲載

10月中旬の頃であったと思うが、日本ファッション協会の山内さんから、バンコク市内の写真を見せて頂いた。山内さんがタイに行かれるという話を伺って、時間があれば市内を走る車を写真で撮ってもらうようお願いしていたのだが、日本のニュースではバンコク市内に洪水が押し寄せているとの情報が流れていたので、車の写真どころではないと心配していた。帰国されてからお話しを伺うと、どうやら洪水が市内に押し寄せる前にすべての用件は終わり、その後ニュースで見たような状況には遭遇されなかったようだ。

あれから2カ月近く経とうとしているが、洪水の傷跡は生々しく復旧にはまだまだ時間がかかりそうな様子が伝えられている。そんなときに、頂いた写真をもとに車の色が、バンコクの道路景観に及ぼす影響というテーマで報告するのは少々気が引けるのだが、せっかく頂いた情報なので早期の復旧を祈りながら掲載することにした。

写真を見て驚いたのは、バンコクの道路景観の印象が車の色の影響で、日本とは著しく異なることである。明快に澄んだ原色調の色彩があふれている。ところが、一般の駐車場に止まっている車はというと、これは日本のそれと変わりなく、白、黒、シルバー系の車体色で占められている。その中に、僅かに赤や青の車が見てとれるところは、やはり日本の駐車場と同じである。日本車も多いと聞くと納得するところである。

とすると、バンコクの道路景観の特徴となっている原色調の色彩はというと、ほとんど、いやすべてといってもよいのだが、タクシーとバスの色であり、特に頂いた写真ではタクシーの色からくるものである。原色というと色彩学では必ず登場する混色の三原色がある。プロセスカラーインクの三原色であるシアン・マゼンタ・イエロー、またテレビやPCモニターの三原色であるレッド・グリーン・ブルーの6色がすぐに頭に浮かぶが、バンコクのタクシーの車体色はこの中の5色が登場する。シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーンである。それにオレンジが加わる。これらの色は目一杯あざやかで明るい。このピュアな色が異国情緒につながる一要因かもしれない。

バンコクの車の色と比較するために、日本の道路景観や駐車場も撮影してみた。一般の駐車場は、バンコクとほぼ同様の車の色で占められている。道路景観は全体的におとなしい。まず強烈なマゼンタやシアンは見当たらない。レッドは登場するがこれは乗用車で、タクシーの色としては出現しない。イエローは乗用車およびタクシーの色として出現するが乗用車の色の方があざやかなものがあり、タクシーのイエローはよく観察すると彩度を押さえたディープトーンに入るような色である。あざやかなグリーンはタクシーの色として登場するのみであるが、これもやや彩度を押さえた色である。

〈赤木 重文〉

バンコクの事例

日本の事例