一般財団法人日本色彩研究所

<コラム>赤く光る唐辛子 (Web版限定)

pen COLOR No.170掲載

今回は最近発表された錯視をご紹介いたします。
照明環境が変われば、あるモノの反射スペクトルは測定上は変化しますが、私達にはモノの色の見えはほとんど変化していないように感じられます。例えば、蛍光灯の光の種類が変わっても、色は格別変わらずに「緑は緑」「赤は赤」で、色の見えは大変安定していると言えます。このような傾向はご存知のように、色の恒常性として知られています。今回ご紹介する錯視は、この色の恒常性を破綻させる照明を利用したものです。以下にHarvey, J. et al. (2019) の行ったデモンストレーションを概説します。
黒っぽい遮光布の上に、赤唐辛子と青唐辛子をセットします(図1)。白色LEDの下で見れば、もちろん赤唐辛子は赤、青唐辛子は緑に見えます(図1①)。まず、このセット全体を狭帯域の緑色LEDで強く照らすと背景も青唐辛子も緑に、赤唐辛子は緑の光を反射しないので、暗い緑に見えます(図1②)。次に、緑色LEDはそのままにして、赤色LEDの光を僅かに加えます。そうすると、背景の遮光布や青唐辛子の色の見えは変化せず、暗い緑色に見えていた赤唐辛子だけが輝くような赤に見えるようになります(図1③)。ここで加えられる赤色光は微量で、赤唐辛子以外の背景などは緑色のままに見えるので、観察者は赤唐辛子の色の変化を照明ではなく、唐辛子そのものの色が変化したような錯覚を覚えます。赤色LEDのオン・オフを繰り返すと、赤唐辛子がネオンのように点滅して見え、これがNeon Fruit Illusionということです。実際には赤色光を加える前後では、緑照明は若干異なっているのですが、発光して見えるようになる赤唐辛子の変化に比べて知覚的差異が十分小さい限り、緑照明は全く同じである必要もないということです。
Harvey, J. et al.によれば、狭帯域のLEDと十分に暗い環境があれば、他のフルーツや野菜など、いろいろなモノで試すことができるそうなので、機会を見つけて試してみたいものです。
なお、Neon Fruit Illusionのデモビデオは、以下のURLのSupplemental Materialにアップされているので、是非御覧ください。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0301006618824484

図1 デモに用いられた唐辛子の略図 〔Harvey, J. et al. (2019) を基に作図〕

① 白色LEDなどで照明
②緑色LEDで照明
③赤色LEDを僅かに加える

Reference
1. Harvey, J., Morimoto, T., & Spitschan, M. (2019)..The Neon Fruit Illusion: A Fresh Recipe for Colour Science DemonstrationsPerception, 48, 242-247, doi: 10.1177/0301006618824484

〈江森 敏夫〉