一般財団法人日本色彩研究所

<研究1部報>”赤”と”青”

pen COLOR No.151掲載

色の中でもペアで議論されることも多い赤と青、今回はこの2色について最近の研究を1つご紹介します。
赤といえば「明るい」「陽気な」「派手な」「情熱的な」「強い」「動的な」「暖かい」「女性的」などのイメージがあり、その連想も口紅、血、夕日、リンゴ、信号、危険などが挙げられます。一方青のイメージ「深い」「かたい」「理知的な」「強い」「静的な」「冷たい」「好きな」「大人っぽい」「男性的な」といったもので、連想語も海、空、水、人工的などが挙げられます。このように、全く異なるイメージを持ったこの2色は、我々に何かしら異なった影響を与えているのでしょうか?

“赤”と“青”が我々の認知的能力に与える影響について、2009年2月6日付のThe New York TimesのWeb版の記事*1で、前日のScience誌のWeb上で発表された論文の紹介をしていました。 その記事によりますと、“赤”は人々の作業をより正確に、“青”はより創造的にするということでした。 ここで紹介されたのはブリティッシュコロンビア大学(カナダ・バンクーバー)の准教授Juliet Zhuと大学院生 Ravi Mehtaによる”Blue or Red? Explorling the Effect of Color on Cognitive Task Performances”*2という論文です。
この調査では、大学生を中心とした600人の実験参加者に対して、コンピュータのスクリーン上で赤、青、または白の背景上に提示された文字や写真を用いた様々な課題を課しています。
それによると、想起や細部に注意を払う作業、例えば単語を覚えたり、スペルや句読法のチェックをしたりといった作業では、背景を青や白にした場合に比べて赤の条件がやや優れていました。
一方創造力を要求するような作業、例えばレンガの創造的な使用方法をなるべく多く列挙するといった作業の場合には、青が赤や白よりも優れていました。
この結果を受けてGreg Miller*3は、この研究に従うなら、税理士を雇う際には、そのオフィスの色を調べるべきだと述べています。もし、正確な成果を求めるなら、細かい作業に向く赤のオフィスの税理士を選んだ方が良いが、どんなに強引と思われようとも、何かしらの控除を引き出して税金を払わないで済まそうとするのならば、創造性を増幅すると考えられる青いオフィスの税理士を探すべきだということです。
色が認知能力に及ぼす影響については、これまでは研究により結果が矛盾することも多く、例えば、赤が認知能力を強化するという研究がある一方、その反対の結果を示す研究もありました。Zhu准教授は、これらの不一致は、どのような認知能力が影響を受けるかに十分注意を払っていなかったからであるとしています。
Zhu准教授は、今回の調査結果は、赤と青が喚起する連想の違いを反映しているものと考えているようです。“赤”は停止信号、赤インク、血などに関連付けられているので、危険や過誤に注意を喚起し、警戒が必要であることを知らせるので、我々はこれを避けるために細部に注意を払うことになります。一方、“青”は空、海、安全などが連想され、平和や開放性などを象徴しており、安全な環境において、我々はより創造的な精神状態になれるということでした。
さらに、この研究では広告に対する反応もテストしています。製品の詳細をリストアップしたものや虫歯予防などの回避すべき行動を強調するものは赤の背景上でより効果的でしたが、創造的なデザインのものや歯のホワイトニングなどの肯定的な行動を強調する場合は青の背景が効果的でした。
これらの実験の参加者は、赤と青どちらが成績を向上させたかをを聞かれると、ほとんどの人は細部に注意を払う作業、創造的な作業いずれの作業でも“青”であったと答えるようですが、これは多くの人が青を好んでいるためだと考えられます。
ただ、この研究では“赤”や“青”に異なった象徴や連想をもった文化についての研究はなされていないので、赤にポシティブな連想が多い文化などがあった場合、異なった結果になるのかどうかはわかりません。
ちなみに、The New York Timesでは多くのニュースルームの壁はトマトスープレッドで、青い部屋はないと記事は締めくくられていました。

〈江森 敏夫〉

【REFERENCES】
1 Pam Belluck,”Reinvent Whell? Blue Room. Defusing a Bomb? Red Room”,The New York Times,February 6,2009.
http://www.nytimes.com/2009/02/06/science/06color.html

2 Juliet Zhu and Ravi Mehta,”Blue or Red? Exploring the Effect of Color on Cognitive Task Performances(abstract)”,Science,February 5,2009
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1169144

3 Greg Miller,”Color Me Creative”, 2009, February 5, ScienceNow Daily News.
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2009/205/1