情報発信力と問題解決力の強化
COLOR No.158掲載
(一財)日本色彩研究所理事 名取和幸
私が所属する研究第1部は、デザイン、心理学、人間工学、情報解析を専門とするスタッフを擁し、以下の研究事業を多角的に進めています。1)委託研究(感性と機能に関するデザインソリューション)、2)自主研究(色彩統計調査他)、3)製品開発、4)色彩研修。以下に、これらの事業をより活性化させていくために立案した、研究第1部が今後進めていく方針を発表いたします。
一つは情報発信力の強化です。
例えば企業等の担当者が、製品や景観・室内のカラーデザインに関わる問題を解決しようとして色研ホームページに訪れた場合を考えてみます。現在のHPでは「受託研究」のコーナーに、対象物の種類ごとに多くの業務内容と実績が網羅的に記載されていますが、このスタイルは解決方法を探すという目的にはあまり適していません。
そこでそうした問題を解消するため、<デザインソリューション>というコーナーを立上げようと思います。
コーナーのトップには、「モノや環境のカラーデザインについて抱えている様々な問題について、実験や調査を基盤として、経験豊富なスタッフが解決のお手伝いをします」とのメッセージを掲げ、ソリューションメニューとして、解決したい項目リストを挙げます。以下のようなものです。
- 手持ちの商品色を厳選して、売れる色・合わせやすい色を選びたい
- 国内外の市場のカラーやテクスチャの動向をとらえたい
- コンセプトやイメージに合った色が欲しい
- 景観を創生するためのガイドを作りたい
- 疲れにくい、読みやすいなどの機能性に優れた色使いを知りたい
- 高齢者や色弱者の見えにも配慮し多くの消費者に分かりやすいデザインにしたい等々。
項目を選択するとそれぞれのソリューションの方法と実績がわかるようにします。いわば老舗の店だからこそ、探しやすいメニューを作ろうというわけです。
以上、HPに絞ってご説明しましたが、勿論、各自の研究発表や他の媒体等による積極的な発言も行ってまいります。
もう一つは問題解決力の強化です。
私たちは、社会や企業のニーズ、新しい研究動向の把握、様々なデザインソリューションの実践を通して、問題に応じた最適な解決方法を選べるよう腕を磨いています。
そうした中、クライアントから寄せられる課題は年々多様化しています。例えば様々なユーザーへの対応が要求されます。地域、国、民族による違い、乳児から高齢者、色弱者、嗜好スタイルの違い等です。また、色という視覚属性だけを扱うのではなく、素材や仕上げ、形状・触感など、それらが一体となったモノとしての評価が求められています。使いやすく、安全性に優れているというような機能性に関わるデザイン評価や提案も積極的に行っています。こうした色々な問題を解決するための個人の力とチーム力をさらに強化していきます。
また、クライアントが意識している問題だけでなく、気づいていない問題点を指摘し改善することは社会的にも一層重要です。かつて色弱者に配慮したデザインは少なかったのですが、今ではできるだけ多くの人に分かりやすいことが必須の要件となっています。問題発見と新しい解決方法論の提案により、生活環境の改善、産業振興のサポートを果たしていきたいと存じます。
最後に、カラーデザインの問題を解決するための視点として、文化、社会、環境などの文脈を重視しつつ、対象となる人たちにどのようなデザインが好ましいのかを総合的に検討することを挙げたいと思います。
これは今から40年前、相馬一郎現会長が『COLOR』に『脱色彩のすすめ』と題し、「色だけの対応を脱し、背景の人間への考えを打出し、より広い領域への積極的参加が必要」と書かれたものと同様の考えといえます。
以上の方針に沿って研究第1部はさらに前進していく所存です。今後とも宜しくお願いいたします。