<コラム>Pink for girls?
COLOR No.175掲載
皆さんはお子さんが生まれたときに、友人や家族に出生を報告するカードを送ったことはありますか?私は送ったことも、もらったこともないので、日本では一般的ではないのかもしれませんが、欧米ではそんな習慣があることを知りました。オランダでも1950年以降、ほとんど全ての新しい親が出生通知カードを送っているということです。
オランダの研究者J. J. Endendijkは、1940年から2019年までの出生告知カードを4669枚収集して、性別による内容の違いを調査しました。調査したのは、赤ちゃんの性別、使用した色、使用した画像の種類、さまざまな種類のテキストなどに基づいてコード化し、集計しました。
分析の結果、男の子のカードは支配的な色としてブルー、赤ちゃんの男性的な描写、および親のプライドの表現を含む確率が高いことが明らかになりました。一方、女の子のカードはピンクが主流で、花のイメージを含む確率が高くなっていました。しかし時代と共に、男の子のカードに男性的な記述が含まれることが減少し、父親が母親よりも先にコメントする可能性が減少しました。男女平等が比較的高いオランダということもあり、調査した17項目のうち性差が見られたものは5項目だけで、全体として性別不問の内容が多くを占めていました。それでも色については、女の子はピンク、男の子はブルーというステレオタイプは健在のようです。
そういえば、随分前にピンクとブルーに関して調べ物をしていたとき、主にアメリカでは1920年代までは男の子にはピンク、女の子にはブルーが一般的だったが、1950年代には逆転して男児はブルー、女児はピンクとなった、という内容の記述をウェブサイトで見つけました。最初はそんなことないだろうと思いましたが、複数のサイトでこの現象があったと記載されていたので、その時はそんな事もあったのかなぁと、不思議に思いました。数年後、再度調べてみると、この言説の反証を示す論文が発表されていました(Del Giudice, 2012)。その論文でDel Giudiceは上記逆転現象を「ピンクとブルーの逆転」(pink-blue reversal,略してPBR)と呼んでいます。
このPBRがあったとする記事や論文は主にJ. B. Paolettiの報告に依拠しています。しかし、PBRが根拠としているのは、当時の雑誌に掲載されていた、「ピンクは大胆で劇的な激しい色の赤を薄めた色なので男の子の色、ブルーは繊細で可憐で、よりきれいな色なので女の子」等といった内容の、全体からすればほんの少数の記事があるだけなのですが、PBRは無批判に受け入れられて、広がってきました。ただ、Del GiudiceはPaolettiの報告ではPBRが生じたと主張されているのではなく、1950年代以前までは男の子と女の子の色についての扱いが一貫せずに矛盾があったと述べているだけなのに、いつの間にかピンクとブルーが完全に逆転したというPBRがあったという都市伝説になっていると述べています。
Del Giudice(2012)はPBRが実際にあったのかどうか過去の記録から調べるため、1800年から2000年までに出版された50万冊以上のデータが登録されたコーパスから、1880年から1980年の間に出版された書籍を対象に、”blue for boys”, “pink for girls”, “blue for girls”, “pink for boys”, “blue for a boy”, “pink for a girl”, “blue for a girl” そして “pink for a boy”の8フレーズを検索しました。これらのフレーズに対する参照は1890年頃に現れ始め、第二次世界大戦後に増大していましたが、データベースで見つかった全ての性別と色の関連付けは、女の子はピンク、男の子はブルーという現在一般的とされる慣習に従っていました。
さらに、Del Giudiceは2017年に拡張された書籍のコーパスと、新聞・雑誌に関するコーパスを対象に、1881年から2000年の範囲で調査したところ、20世紀初頭に新聞・雑誌で矛盾した記述がありましたが、書籍に関してはほとんど矛盾が見られず、現在の一般的慣習と同じになっています。総じて、性別と色の関連性は、PBRが論じているよりもはるかに安定していると言えるのでしょう。
またDel GiudiceはPRBのような根拠の薄い都市伝説はこの分野における研究の進展を妨げているとも言っています。科学的に見えても都市伝説にはご用心を…。
Reference
1. Endendijk, J. J.(2022).,Welcome to a Pink and Blue World! An Analysis of Gender?Typed Content in Birth Announcement Cards From 1940-2019 in the Netherlands., Sex Roles, 86:1-13.
2. Del Giudice, M. (2012).,The twentieth century reversal of pink-blue gender coding: A scientific urban legend? [Letter to the Editor]., Archives of Sexual Behavior, 41, 1321-1323. doi:10.1007/s10508-012-0002-z.
3. Del Giudice, M. (2012).,Pink, Blue, and Gender: An Update [Letter to the Editor]., Archives of Sexual Behavior, 46, 1555-1563. doi:10.1007/s10508-017-1024-3.
〈江森 敏夫〉