一般財団法人日本色彩研究所

<研究2部報>マンセル明度関数の係数について

pen COLOR No.166掲載

マンセル明度関数の係数が、JIS規格とASTM規格の間で最終桁に微少な違いがあるのは何故かとの問い合わせがあった。それは、JIS規格の「JIS Z 8721色の表示方法―三属性による表示」[1]の「付表1 マンセルの明度Vと三刺激値YCとの関係」の備考にある(式1)と、ASTM規格の「ASTM D1535-13 マンセル表色系の色指定のための標準的手順」[2]の(式2)であり、以下にその式を示した。

JIS Z 8721 (1993)
= 1.1913- 0.225322 + 0.23351V - 0.020483V 4 + 0.00081936V 5 (式1)

ASTM D1535 (2013)
= 1.1914V - 0.22533V 2 + 0.23352V 3 - 0.020484V 4 + 0.00081939V 5 (式2)

これら数式のもとになっているのは、1943年にアメリカ光学会(OSA)の測色委員会により提案されたマンセル明度関数[3](式3)である。

OSA (1943)
100Y / YMgO = 1.2219V - 0.23111V 2 + 0.23951V 3 - 0.021009V 4 + 0.0008404V 5 (式3)

上式の提案当時、97.5%の反射率をもつ酸化マグネシウム面(MgO)が100%基準として使用されていたので、そのまま測定結果が使えるように定義された。マンセル明度Vと酸化マグネシウム面に対する相対反射率100Y / YMgOの関数で、Yは三刺激値Yの値、YMgOは酸化マグネシウム面の三刺激値Yの値である。図1は、横軸のマンセル明度Vと縦軸の反射率の関係を示しており、縦軸は左側が酸化マグネシウム面、右側が完全拡散反射面を100%基準としたスケーリングである。完全拡散反射面の酸化マグネシウム基準の相対反射率は102.568%になる。
現在のマンセル明度関数は完全拡散反射面を100%基準としており、JIS規格は1/1.02568、ASTM規格は0.975を乗算した5項の係数を有効数字5桁で丸めた式となっている。マンセル明度関数の比較のため、(式3)に1/1.02568を乗算した補正値と、(式1)・(式2)を比較した。マンセル明度Vを10.00~0.00の0.01刻みで1001段階を対象に、明度が4以上は小数第3位を、明度4未満は小数第4位を四捨五入し表1に値を示した。その結果、JIS規格は明度4以上で85箇所、明度4未満で21箇所の計106箇所が、ASTM規格は明度4以上で30箇所、明度4未満で78箇所の計108箇所が異なっており、その差は、明度4以上で0.01%、明度4未満で0.001%であった。
 JIS規格とASTM規格のマンセル明度関数の係数の違いは、補正数値の違いに起因している。通常使用される明度の表記は、小数第1位か2位までであり、どちらの関数も影響のないレベルである。

図1 マンセル明度関数の縦軸スケーリングの違い
V100YMgOの補正値Y(式1)Y(式2)
10.00100.00100.00100.00
9.9999.7499.7499.74
9.9899.4999.4899.49








4.0011.7011.7011.70
3.9911.63611.63611.637
3.9811.57311.57311.573








0.000.0000.0000.000
表1 マンセル明度関数の比較

参考文献
[1] JIS Z 8721(1993):色の表示方法―三属性による表示, 日本規格協会.
[2] ASTM D1535(2013):Standard Practice for Specifying Color by the Munsell System.
[3] Newhall,S.M., Nickerson, D. and Judd, D.B. (1943):Final Report of the O. S. A. subcommittee on the spacing of the Munsell colors, J. O. S. A.

〈那須野 信行〉