<巻頭言>JIS 色に関する用語改定の取り組み
COLOR No.171掲載
慶應義塾大学名誉教授
JIS 色に関する用語改定委員会委員長
鈴木 恒男
JIS Z 8105 「色に関する用語」は1961年に制定され、1982年に改定が行われて、37年以上この用語が色彩学の基本的用語として使用されてきた。今回の改定の目的の一つは、色に関する用語の基になるInternational Lighting Vocabulary (ILV)をCIEが改定したのを機会にJISの改定を行い、これとの整合性をはかること。さらに、色彩学は多くの学問領域が重なって成立しており、それぞれの分野で同じ言葉を異なった意味に捉えていることが起こっているので、用語の共通認識を図ること。さらに、色彩の用語は、日常的にも使われることが多くあるが、その意味が多様であり、産業界との整合性が取れていない面があるので、広い意味での用語の統一化を図ることである。
色に関する用語は、a)主に測光及び材料の光学特性に関する用語、b)主に測色に関する用語、c)主に視覚に関する用語からできているので、基本的にはこの枠組みは踏襲する。ただ、新しい試みとして日本工業規格が日本産業規格に改められたように、情報産業も規格の対象とする取り組みに合わせて、色彩の用語も今まで対象としなかった、デザイン部門での用語も取り入れる方向で改定を行うつもりである。
ILVの改定で主に視覚に関する用語で改定が行われ注目しているところが、色覚異常に関する用語である。従来の用語では、正常色覚と色覚異常しか扱っていなかったが、今回の改定では異常色覚を錐体の欠損または感度低下でL錐体が関与した1型、M錐体が関与した2型、S錐体が関与した3型に分類していることである。これは、広く色覚異常に関する知識を普及するとのバリアフリーの流れに対応するものであり、今回の改定で取り入れる方向である。ただ、正常色覚、色覚異常との言葉がそのままでよいのかは議論する必要がある。色覚異常は英語ではdefective color vision でdefectiveは不完全との意味である。ILVでこの用語の説明に使用されている anomaly of vision は異常と訳さなくとも異形等の訳が考えられるのではないか。色覚の多様性が唱えられ、それを受け入れる素地ができているので、色覚での差別をなくし、正しく理解されるために検討したいと思っている。
測色に関する用語では、前回の改定で問題になったが、積み残された用語にトーンがある。この言葉は広く使われているのであるから、色彩用語には入れる方向で検討したいが、前回この問題を扱われた森先生や川上先生がお亡くなりになっているので、その時の議論を継続することはできないが、使用の現状を考えて、前向きに検討したい。
もう一つ、測色のところで検討したいのは、一般の人が使う色彩用語との整合性である。明るい色、鮮やかな色は明度、彩度との整合性がとれているが、現在の色に関する用語の「色み」は有彩色の度合いと説明していて、一般の人が使う赤み、青みのように色相を表す色みとは離れているので検討したいと思う。
用語の意味では、例えば日常的に疑問を持たずに使っている単色光刺激であるが、これはmonochromatic stimulusの訳語であるり、単色との表現は正しいのか。単波長が正確な表現である。このような訳語の問題も検討しなければならないと思う。
デザイン関係で多く使用されている等色相面での区分の仕方である純色、明清色等の言葉やベースカラー、アクセントカラー等の用語に関しても今回の改定で全て取り入れることはできないか。できるだけ多く統一した内容の言葉を用語として採用を試みるつもりである。