一般財団法人日本色彩研究所

日本色彩研究所の活動と今日的な課題

pen COLOR No.152掲載

財団法人日本色彩研究所常務理事  赤木 重文

公益法人制度改革にあたって、当研究所においても新制度に移行する準備を進めていますが、それに伴う検討の一つとして法人の目的や事業内容について整理してみました。
実は、今からちょうど2年前にも、当研究所の事業内容を整理して考えるきっかけを頂いたことがあります。第4回アジアカラーフォーラムが中国の無錫市で行われましたが、その中のプログラムの一つに日中韓の色彩関係者によるパネルディスカッションがあり、そのパネラーの1人として壇上に上がりました。前夜行われた打合せで私に与えられたテーマは「日本色彩研究所の設立目的と業務内容」でした。「色彩一筋、創立80年余りの色彩研究所とは一体何をしているところ?」というパネラーや司会者の素朴な疑問が、私の話すテーマになりました。定款など持参すればよかったと悔いつつも、近年手がけた業務を頭に浮かべながら一夜漬けでメモ帳を汚していきました。結果的には、日本色彩研究所の存在意義や事業内容について、参加者の皆様にご理解頂けたと感じています。

今回、日本色彩研究所の法人としての目的や事業内容を俯瞰するにあたって、2年前に話したことを思い起こしながら、多くの活動事例の目的についてまとめてみました。
1.生活環境整備支援活動
生活基盤である安全で快適な環境形成におよぼす色彩の影響についての調査研究、および良好な生活環境を保全育成するための色彩活用に関する手法開発。
2.産業振興支援活動
産業界が直面する色彩に関する諸問題に対して、それらの問題を解決するための手法に関する研究。
3.文化振興支援活動
色彩が文化の形成におよぼす影響についての調査研究、およびわが国固有の文化を保全育成するためのの色彩活用に関する手法開発。
4.教育支援・人材育成支援活動
人格形成教育からモノづくりに関する教育まで、時代の需要に応じた色彩教育カリキュラム開発に関する調査研究および色彩教育手法の開発。
以上が、私なりにまとめた日本色彩研究所の主要な活動目的ですが、これらの具体的な活動を時代別に整理すると今日的な社会のニーズや課題なども見えてきます。

今後の色彩活用のキーワードは「繋ぐ」だと考えています。色彩の関わるデザイン設計分野は多方面にわたりますが、ひとつの分野の色彩検討はこれまでそのフォーマットの中だけで完結していましたが、これからは色で様々な分野を繋ぎ視環境全体をトータルに考える視点が必要です。看板だけを取り出してみるとよくできたデザインであっても、ある景観の中では美しい景観を阻害する要因になることもあります。
また、物性の測定、人間工学的測定、心理評価測定、デザイン制作など異なる分野の作業を集結して始めてソリューションが導き出せる業務の依頼が、最近増えています。これも専門領域を超えて「繋ぐ」ことによって色彩を活用する業務事例でしょう。
この「繋ぐ」というキーワードも、小さな所帯に異分野の専門家を備えた日本色彩研究所だからこそ、より具体性を持った活動指針として意味を持つと考えることができます。
このように、当研究所の活動を整理してみると、具体的な業務内容は変化しても、私たちの社会的な使命である4つの大きな柱はますます重要になると思われます。公益法人制度改革を節目に、これらの社会的使命を改めて胸に刻んで活動を続けていくことが、私たちに求められているのではないでしょうか。