一般財団法人日本色彩研究所

<研究2部報>雑記:グリーンフラッシュについて

pen COLOR No.147掲載

太陽が緑の輝きを見せる事があるのを、皆さんはご存じでしょうか?空気の澄んだ水平線に太陽が沈む寸前、太陽の上端が緑の輝きをチラッと見せるというのです。
この現象は「グリーン・フラッシュ」と呼ばれ、正月にフジテレビのスペシャルドラマ「アテンションプリーズ」でも効果的に使用されていました。ハワイの伝説では、恋人同士でこれを見られれば永遠の幸せが訪れるというのです。太陽の上部が水平線に隠れる瞬間、太陽の上端が緑色の輝きを見せるというのです。 このドラマの中のグリーン・フラッシュは、演出効果も加わっていそうなほど長くはっきりとした物でした。実際には1秒程度のわずかなもので、見ることが大変難しく、その条件も二つそろう必要があります。

  1. 高所で水平線が望める場所であること
  2. 空気が澄んでいること

さて、どうして緑に光るのでしょうか?

人間が見る緑について

太陽が緑にを見えるためには、中波長域の光を独立して見る必要があります。
虹に見られるように、太陽の光には短波長域の青から長波長域の赤までの様々な色が含まれています。もし、中波長域の光に短波長域の青い成分が含まれれば「青緑」に見えます。一方、長波長域の赤い成分が含まれれば「黄」に見えてしまいます。

青い空と赤い夕空について

青い空は、大気中の粒子に光が当たり散乱する事により見られます。散乱することで、短波長域の光の成分が弱まるのです。夕空は、散乱された結果として現れているのです。
大気による散乱が原因であることは、アメリカのアポロ計画の写真を見れば明らかです。地球を撮った月面写真を見ると、地球は青く輝いて見えます。一方月面の空は、真っ暗で青くはありません。月面には大気が存在しませんので、その為に散乱による青空は見られないのです。
大気による散乱は、短波長側で起こりやすい現象です。短波長側の青い光は、上空の大気で十分に散乱します。青空は、大気により散乱された短波長域の青を見ることなのです。大気のない月面では、太陽光が上空で散乱することはありません。直接地表を照らすことになります。
夕空には、短波長の光の成分はほとんど含まれません。大気層の光の通過距離と関係があります。昼は太陽が上空にあるため、大気層の通過距離が短くなります。一方夕方は、光が大気層を斜めに通るために長い距離を通ることになります。大気層の通過距離が長くなる夕方では少し散乱された中波長と散乱されない長波長が目に届きます。

大気の屈折について

屈折により太陽光線が分光される現象として、虹があります。大気にも同様に、波長による屈折率の違いはあります。理科年表によれば15℃・1気圧の標準空気の屈折率は、380nmで1.0002839、780nmで1.0002752と、その差は0.0000087のごくわずかな違いです。(プリズムに使用されるフリントガラスでは、この差が0.05程度あります。)このわずかな違いが、グリーン・フラッシュとして現れるのです。
夕空では、すでに短波長域が散乱されて減衰しています。すると、中波長域と長波長域の光が分離される条件を考えれば良いことになります。水平線を基準に考えると、長波長の光は下側に、中波長の光は上側に存在します。しかし、その位置的な違いは微小なものです。水平線の向こうに太陽が沈んだほんの一瞬だけ、上側の縁で見ることが出来ます。
地球の丸みも考える必要があります。波長による屈折率の差が非常に小さいために分離して見えるには距離が十分に必要となります。また、大気層は上空に行くほど屈折率が低くなります。地球表面上の高い屈折率の位置に視線を定める必要があるのです。 緑を見るには、高台が好ましいと言うことになるのです。

いつの日か、グリーン・フラッシュを見てみたいものです。

〈研究第2部 那須野信行〉

【参考文献:】
国立天文台編、「理科年表」丸善(2004)
斎藤文一、武田康男、「空の色と光の図鑑」草思社(1995)