一般財団法人日本色彩研究所

<コラム>白肌は顔を隠す?

pen COLOR No.169掲載

ようやく暑さも一段落して秋の気配を感じるようになりましたが、今夏の暑さは酷かったですね。日差しも強かったので、日焼け対策をされた方も多かったのではないでしょうか。
いつの頃からか、夏のテニスコートでは顔全体を覆い隠すUVカットマスクが流行し、今ではコートにいる女性全員がマスクを着用し日焼け対策していることも珍しくなくなりました。
1990年代初頭に「ガングロ」が話題になりましたが、1990年代後半以降は、美白ブームが続いているようです。この美白ブームの結果、日本人女性の肌の色はどのように変化したのでしょうか。今回は、Kikuchi et al. (2018)*1による日本人女性肌色の長期的変化の調査報告をご紹介したいと思います。

Kikuchiらは1991~2015年の日本人女性の肌色の測定結果から、この25年間に肌色がどのように変化したのかを報告しています。使用したデータは1991年(1991-1992)、2001年(1999~2002)、2005年(2004-2006)、2015年(2013-2015)、調査対象は20~59歳の日本人女性、総数で3181名のものでした。参加者が洗顔後、測定環境に10分間慣れてから、頬の下・口の横を分光測色計で測定しました。
その結果、日本人女性の肌色は1991年から2001年にかけて高明度、低彩度、そして色相では黄みに変化していました。さらに、2005年から2015年にかけて肌色の分布はより低彩度に、色相は赤みにシフトしていました(図1)。1991~2001年には大きな変化が認められますが、それに比て2005~2015の変化は小さいものの、統計的には有意な変化が認められました。
また、肌の見えの色に大きく影響すると考えられているメラニンとヘモグロビンの量を分光反射率から推定した結果、平均ヘモグロビン濃度は1991~2001年の10年に有意に減少し、平均メラニン濃度は2005~2015年の10年間に有意に減少していましていることが分かりました。
さらに、肌の見えの色の変化と、ヘモグロビン濃度、メラニン濃度の関係を明らかにするために、先行研究で得られている皮膚のモデルに基づいて、モンテカルロ・シミュレーションを実施したところ、以下のような関係を確認することができました。

ヘモグロビン濃度、メラニン濃度の減少は共に肌の色の彩度を低下させ、明度を上昇させました。色相では、ヘモグロビン濃度の減少は肌の赤みを低減させ、メラニン濃度の減少は黄みを低減させました。このシミュレーションの結果と、肌色の測定値、ヘモグロビン濃度、メラニン濃度の関係を総合してみると、1991~2001年の肌色変化はヘモグロビン濃度の低下により生じ、明るさの増加、彩度の低下、黄みへのシフトとなり、2005~2015年の変化はメラニン濃度の減少により生じ、彩度の低下と赤みへのシフトになったとKikuchiらは報告しています。

最近では,女性用ばかりではなく、男性用の美白化粧品も多数販売されるようになりました。あるクリニックの調査では,男性の「日焼けしたくない」理由のトップは「シミやシワ,肌荒れの原因になるから」だそうです。きっと、間もなく男性でもテニスコートでUVカットマスクで顔を隠してプレイする方に出会うのでは、と思っていたのですが、つい先日、実際に隣のコートでお見かけすることができました。これから美白はどこまで進んでいくのか、興味深いところです。

図1 日本人女性(20-59歳)のマンセル表記による肌色の平均値と95%信頼楕円
〔Kikuchi et al. (2018)*1より〕

Reference
1. Kumiko Kikuchi, Chika Katagiri, Hironobu Yoshikawa..Long-term changes in Japanese women’s facial skin colorColor Research and Application, 2018, 43, 119-129,

〈江森 敏夫〉