一般財団法人日本色彩研究所

<研究1部報>加法混色の絵の具

pen COLOR No.144掲載

私が随分幼いころの記憶であるが、東海道中膝栗毛をネタにしたマンが本に「炊き立ての冷や飯」と「取り立ての干物」が弥次喜多二人の会話としてでてきた。 幼心に印象的な一文で、会う人ごとに紹介した記憶がある。日頃の生活体験からすると相矛盾するものがひとつになった実在しないもので、言葉遊びの世界という思いと、炊き立てのご飯に水をかけて食べるというチャレンジをして、 何とか実際のものにしてみたい気持ちが混在していた。「加法混色の絵の具」と聞いたとき、この幼いころの記憶がよみがえった。 しかし、現在の普通の技術をもってすれば、「炊き立ての冷や飯」や「取立ての干物」など、まさに朝飯前のものである。と同時に、加法混色の絵の具も実在した。

先日行われたNPO法人全国美術デザイン専門学校教育振興会の教員研修会でのことである。一人のイラストレーターに、絵の具を混色してイラストレーション制作のプロセスを実演で紹介してもらったのだが、その混色原理が加法混色であった。

通常、絵の具の混色は、透明絵の具を使って重ね塗りすれば、ほぼ減法混色の原理に近い混色となり、不透明絵の具を混ぜ合わせれば、減法混色と加法混色の中間的な混色となる。絵の具を使う場合、三原色だけで完成させることは希だが、 敢えて色数を最小限に限定して出来るだけ多くの色を再現しようとすれば、シアン、マゼンタ、イエローに近い絵の具を選ぶ。

ところが今回のイラストレーション制作の場合、三原色をあげると赤、緑、青であるという。
種を明かせば、その絵の具は蛍光塗料で紫外線を受けて発色する。透明の容器に詰められたそれぞれの絵の具は、可視光線の下では乳白色であり、筆で塗った程度の厚みだと透明である。暗い場所でそれにブラックライトなどの紫外線を当てると、それぞれの色に発色する。

実際の制作はブラックライトの元で行う。赤と緑を混ぜ合わせると黄色に発色し、赤と緑と青を混色すると白になる。まさに、加法混色そのものである。また、黒に相当する絵の具は、UVカットの溶剤であるというところは、聞いてみて納得させられた話である。

作品制作の依頼は、飲食店、アミューズメント施設、イベントなどで、夜や深海をテーマにしたデザインは光の効果と同調して異空間を演出する。また、ブラックライトと白色ランプの照明計画によってはイラストレーションが消えたり現れたりと、トリッキーな見せ方も可能であり、 その応用範囲は以外と広いのではないだろうか。

発色も耐久性も申し分ないプロ用の塗料は、溶剤がシンナーであることと価格も相当高価であるとのことから、アマチュアには扱いにくいそうである。しかし、水性で手頃な価格の塗料もあると教えてもらい、早速、東急ハンズに行って手に入れてきた。 マジックルミノペイントという商品名で、レッド、グリーン、ブルーの3色があり、それぞれ50グラム入って税込各840円であった。

今回の教員研修は、新しく発刊したColor Master -BASIC-の解説を各章の執筆者が行うものであった。このテキストには各章の間に8本のコラムがあり、その中の1本が「不思議な絵の具」と題してこの蛍光塗料を紹介したものである。 この塗料を使ったイラストレーターの第1人者が、テキスト編集メンバーの教え子ということもあり、研修会のプログラムにも参加してもらうことができた。おかげで、非常に有意義且つ楽しめる研修会となった。

さて、全国美術デザイン専門学校教育振興会(略称ADEC)は、色彩教育をはじめ様々な美術デザイン関連教育について、実践的で社会のニーズに沿った教育プログラムの開発をめざして活動している。
昨年の5月には特定非営利活動法人(NPO法人)の許可を得、学校関係だけでなく関連団体や企業また個人に対して門戸を開いた。今回の教育研修には、日本色彩研究所認定の色彩指導者の中からも数名の参加を得た。興味のある方は是非活動に参加していただきたい。

【問い合わせ先】
TEL 03-5215-5354 Email shikisai@adec.gr.jp

〈研究第1部 赤木重文〉

ブラックライトの下での混色
過去の自作を紹介するイラストレーターの松原一史さん。
白色光の下で見るとただのすだれ。
ブラックライトを当てるとイラストが現れる。
マジックルミノペイントを筆につけて塗ってみる。
(台紙は黒ラシャ)
白色の照明光の下では、表面がニスのように光るのみ。