<巻頭言>色彩・教育研究とアーカイブ
COLOR No.167掲載
日本色彩教育研究会会長
群馬大学教授
茂木 一司
アーカイブ(archive)とは、重要記録を保存・活用し、未来に伝達すること、です。アーカイブは今いろいろな意味で注目を集めています。パソコンの普及とインターネットによって、外来語のアーカイブはデジタル化されたコンテンツが蓄積され、二次利用が可能になり、人間の知的環境を大きく変更する可能性を持つことを示しています。たとえば、私たちの日常生活の利用履歴や通信記録がYahooやAmazonのおすすめ商品として表示されるなど、自動的に収集・蓄積されたビックデータは新たな市場の創出を生みだそうとしています。しかしながら、アーカイブが重要だという認識は必ずしもコンセンサスを得たものではありません。森友学園や加計学園ではありませんが、何が重要か重要でないかという判断は極めて難しい問題です。(人文社会を含めた)科学研究という領域においても、「新しい」「役に立つ」ことが優先されがちで、「やるべき」「やっていい」研究なのかはおろそかにされがちです。
私たちの色彩・教育研究はどこへむかっていったらいいのでしょうか?それにはやはりどこから来て、いまどこにいるかを考えることからはじめたい。今回、日本色彩研究会は研究事業として、「日本における色彩及び色彩教育研究と資料のデジタルアーカイブの構築」をテーマに掲げました。歴史研究の意義は周知のように、過去を見つめ直し、己を知り、豊かな明日を考えることです。そのためには、史料を収集し、分析(分類)し、後人が使えるように整理し、アーカイブ化することです。日本色彩教育研究会は戦前からの豊かな歴史を持ちながらも、残念ながら自らの史料をきちんと残してきませんでした。現存するのは、『カラーサークル』誌、『色彩教育』誌のバックナンバーだけで、日本の色彩研究と色彩教育の詳細や相関を示す細かい史料やその研究は確認できません。
昭和13年に和田三造氏(日本色彩研究所)と山形寛氏(東京女子師範学校教授)を中心に美術・デザイン及び色彩教育の有志がつくった「色彩教育研究協議会」が戦後昭和23年に誰でも入会可能な会員組織「色彩教育研究会」として発足しました。機関誌として編纂された『カラーサークル』誌の論考の学術的な質の高さは当時の色彩教育の活発さを示しています。しかしながら図画工作・美術科における色彩の領域的な取り扱いは学習指導要領から消えた昭和26年以降、「色彩指導(学習)はすべての活動の中で適宜行っていくということになっていたはずが、残念ながらその頃から色彩学習はあいまいになり、忘れがちになった」(村内哲二、『色彩教育研究会40周年記念誌』)との指摘どおり、中学校で2時間程度のいわゆる色相環教育になってしまっています。当時色彩教育がなぜ活発だったかというと、そこに集まったのが科学者や美術教育者などで、アートとサイエンスの架橋される場がつくられたからだと思います。
カラーの時代を反映し、同時に平成20年現行学習指導要領で設定された共通事項によって、色彩教育が再び注目を集めています。色彩の研究や教育に携わるみなさま全員にこの場をかりてお願いします。個人的なものも含めて、この領域に関わる一次史料のコレクションに協力してください。色彩研究・教育を基礎にした知のデジタルアーカイブの構築がもたらす豊かな世界をいっしょにつくりませんか!日本色彩教育研究会(http://www.shikikyo.jp/)の入会とともにお待ちしています。