一般財団法人日本色彩研究所

<研究2部報>色再現技術における色の見えモデルの利用について

pen COLOR No.148掲載

人間が見ている色は、環境によって大きく変化します。図1では、横方向に小さな正方形のコマが「白・灰色・黒」の順に並んでいます。このコマは、「白・灰色・黒背景」何れの背景も同じ色として印刷されています。しかし、背景の明るさによりその見え方は変化します。左の白いコマは、 背景が暗くなるに従い明るく感じられます。逆に右端の黒いコマは、背景が明るくなるに従い暗く感じられます。そして中央の灰色のコマは、灰色の背景の時は白いコマと黒いコマの中間の明るさとして感じられますが、背景が白いと黒寄りに暗く感じられ、背景が暗いと白寄りに明るく感じられます。 明暗対比の現象が、このような色の見えの違いを生みだします。背景の明るさに応じて、明暗の知覚が変化した結果として観察されるのです。

図1.見え方の違い

これは、色再現技術における従来と次世代の色再現の考え方の違いを簡単に示しています。それぞれの測色値を一致させるか・環境全体での色の見え方を一致させるかの違いです。
従来型では、測色値(例えばCIELAB)を一致させるのみでした。
次世代型では、環境全体の関係性のもとで観察される「知覚される色の見え」の一致が目標となります。「色の見えモデル」は、観察環境パラメータと実際の三刺激値によって色の見えを予測できます。色再現を実施する環境での対応する三刺激値に戻すこともできます。色の見え中心の考えたによって、いつでも色の見えは一定となります。
色の見えモデルは、知覚される色の見えの各属性を定量化します。知覚される色の見えの属性は明度(J)・クロマ(C)・色相(h)などであり、環境の測色値や環境の輝度などに対応づけられます。色の見えの属性として、明るさ(Q)・カラフルネス(M)・飽和度(s)もあげられまれます。(ここに示した( )内の英字記号はCIECAMで使用されるものです。)これまでのような定められた環境に限定されることなく、見る環境に合わせて色の見えを再現する考え方になります。

それでは、実際に色の見えが変化する現象の例を考えてみましょう。
例えば、テレビ画面を真っ暗な部屋で見る場合と明るい部屋で見る場合のコントラスト感の違いがあげられます。暗い部屋では強く、明るいと弱いコントラスト感に感じられます(バートルソン-ブレナマン効果)。
また、赤い箱を薄暗い部屋から外の太陽光の下に出して観察すると、赤い色の鮮やかさ感が増加して感じられます(ハント効果)。
他にも色々な色の見えの現象があり、このような変化を予測するのが色の見えモデルです。
色の見えについて国際照明委員会(CIE)では、様々なモデルの比較検討が行われてきました。CIEの第1部会「視覚と色」において、1997年の京都会議で「色の見えモデルCIECAM97s」が合意され1998年に技術報告書としてCIE Publication No.131として出版されました。さらに第8部会「画像技術」に引き継がれて、2002年に改良されたモデルであるCIECAM02(シーキャムオーツー)が合意されました。そして2004年に、技術報告書として「CIE Publication No. 159, カラーマネージメントシステムにおける色の見えモデル CIECAM02」が出版されたのです。その題名の通り適用対象はカラーマネージメントシステムとなります。

今年はじめ、ついにCIECAM02が利用可能なマルチメディア環境が登場しました。Windows Vista OSに搭載されたカラーマネージメントシステムであるWCS(Windows Color System)です。これは、2005年に発表されたCanonのカラーマネージメントシステムであるKyanos(キュアノス)がベースとなっています。
CIECAM02の利用には、色を見る環境情報が不可欠となります。この情報をもとに色の見えが計算されるからです。WCSでは、CAMP(Color Appearance Model Profile)内に以下のような環境情報が記述されます。
– 白色点
– 環境の背景
– 周囲環境のタイプ(一般的・薄暗い・暗黒)
– 順応輝度
– 順応の程度



まだ登場したばかりであり、利用できる機器も限られています。しかし、カラーマネージメントシステム内での扱いが可能となったことにより、色の見えモデルCIECAM02の利用は大きく進められるでしょう。

〈研究第2部 那須野信行〉