<研究2部報>CIEDE2000色差式について(その5―色相のT関数による色相差の補正)
COLOR No.175掲載
前回は、青色領域の歪み補正について解説した。今回は、「色相のT関数」による色相差の補正について、以下に示す対象の式を使い解説を行う。
色管理をCIE1976L*a*b*表色系により行う場合、色相に応じて色差値の設定を変えることがよくある。例えば、基準色として肌色と緑色を選ぶ場合、肌色で厳しく、緑色では緩くしたりする。それはこの表色系において、色相差が一定でも色相角の位置により目視で知覚される色の差は異なって観察されるからである。
CIE94色差式では(式4)に示す平均クロマの補正のみであったが、CIEDE2000色差式では平均クロマとBarnsにより5つのデータセット基にして導出された「色相のT関数」の(式2)を導入することで、色相角に応じた色相差が(式3)で計算できるようになった(CIEDE2000色差式は「無彩色付近での歪み補正」によるクロマを使用されるので、区別してではなくを使用する)。
(図1)は(式2)による平均色相角における「色相のT関数」の変量を示しており、色相角に応じて色相差を変化させる様子が見られる。▼は極小・▽は極大の位置を示し、平均色相角と色相のT関数のTをグラフ内に表示した(中心の横方向の点線は、T=1の無補正を示す)。
(図2)は(式3)の平均クロマを10毎に変化させたグラフで、横方向の波線が(図1)の色相角に応じた色相差の変化がクロマ増加に伴い積み重なっている様子が示されている(=10, 20, 30では「無彩色付近の歪み補正の影響」が大きいので、点線で示している)。
さらに縦方向に、マンセルの主要10色相[V=5]におけるマンセル彩度C=1, 2, 3, 4を○印、C=6, 8, 10, 12, 14,…を●印でそれぞれ示した。○印位置において「無彩色付近の歪み補正の影響」が見られるため、●印に注目してグラフを見ると色相差の補正についてよく理解できる。
最後に、マンセル明度V=5 における(式1)による等色差範囲(=1)の結果を(図3)に示した。等色差範囲を示す楕円において、a*-b*平面の無彩色の原点から高彩度の外周へ向かい長く伸びる方向の長半径は彩度差、それに直交する短半径は色相差に対応する。そこで、色相角に応じた色相差の変化について短半径に注目すると、▼位置では狭いので厳しく、▽位置では広いのであまい判定でもよいことが示されており、「色相のT関数」の働きがよく理解できると思う。
これまで、クロマや色相といった色度平面を対象に解説を行ってきた。次回はいよいよ「明度の補正」について解説する。
〈那須野 信行〉