2012年度の事業計画
COLOR No.157掲載
これまで当研究所では、官公庁や自治体からの要請に対処しJIS制定や各種標準色票作成等への参画、色彩関連ガイドラインの策定など公的な問題解決に携わってきました。さらに、多彩な業種にわたる企業から各種商品製造に関して、企画開発・デザイン設計・製造管理・販売促進・市場調査など一連の各工程で発生する諸問題について、ソリューションの提案をしています。また、教育関連事業として、テキスト・教材企画開発や研修会企画実施を通して、初等中等教育から企業内研修まで幅広く人材育成に努めてきました。
これらの活動は当研究所の社会的役割と考え、本年度の研究計画についても継承していきますが、具体的なテーマについては時代的なニーズに適ったものになっています。そして、それらのニーズは色彩以外の様々な要因が関与してくるので、色彩研究で培った多様な方法を駆使して、色彩にこだわることなく様々な分野の問題解決に取り組みます。
各種商品製造におけるデザイン設計のための支援
(1)機能性と安全性を高める設計に関する研究
昨年度に引き続き、人間工学的視点に立った研究を実施します。対象や目的によって具体的な測定項目は異なってきますが、動作解析や筋電図等による客観的評価や主観的評価を用いて、使用者にとって使いやすく、機能性に優れ、快適で安全性を高めることができる製品を設計するための研究を進めます。
(2)色のユニバーサルデザイン支援ツールに関する研究
昨年、2色型色覚の混同色をHVCで表示した「混同色カラーチャート」を開発・製作しましたが、これにより身近な印刷物などに対するチェックが容易になり、さらに汎用性の高い支援ツール開発の可能性も見えてきました。本年度は、混同色の色対であることを判断する技能がトレーニングによって向上するツールを開発します。視覚表示に関係するデザインの制作者が、制作過程で混同色やそれに近い色の組み合わせに対して逸早くチェックできる技能を養います。
各種商品製造における企画・開発のための支援
(3)海外の色彩情報に関する研究
最近、市場としての日本や海外諸国についての色彩関連情報が求められています。今年は以下の3種類の情報を収集して分析し、市場情報を求める内外の企業に提供します。
①色彩関連の欧州統一規格(EN規格)について、その内容をわかりやすく解説します。
②海外のいくつかの国におけるタブー色に関する情報を収集します。
③海外でも注目されている国内のストリートファッションについて、収集した多くの事例の配色傾向を分析します。
(4)商品の最適色に関する研究
商品にとって最適と考えられる色揃えを選定するための方法論の確立を目指し、本年度は以下の検討を行ないます。
現在の国内外市場における様々な商品について、色数と色の分布に関する関係を調査し、商品ごとに色数の設定に影響を与える要因を抽出します。また色数の違いによる消費者の満足度評価についても検討を行ないます。
標準化に関する研究業務
(5)白色光源の演色性評価方法の開発
白熱電球や蛍光ランプと置き換えるLED光源の実用化に伴って、その性能評価方法が検討されています。CIE-TC 1-69では、白色LED光源を含めた新しい演色評価方法の開発を進めています。しかし、白色LED光源の演色性を評価した知覚実験データが少なく、新しい演色性評価方法の性能評価を難しくしています。当研究所は2011年度から、蛍光ランプおよび白色LED光源の演色性を、両眼隔壁法を用いて調査し、知覚実験データを収集しています。2012年度も知覚実験データの収集を継続するとともに、演色評価に用いる試験色の選定方法について検討します。
(6)視覚的質感のシステマティックな再現に関する研究
当研究所では、測色結果から商品や環境の色の傾向を把握するいくつかの方法を提案し、それを用いた多くの調査検討を行なっています。
一方、素材や仕上げの違いによって生まれる視覚的質感については個別的に対応してきているものの、幾つかの実物サンプルを補間する質感スケールのようなシステマティックな表示法は確立されていません。
質感の「視覚属性」と「表面性状の物性値」、さらに「質感の系統的な再現画像」と「画像制作ソフトのパラメータ」の関係などについて実験的な検討を進めていきます。本年度はパール感をテーマにします。
(7)トーンを細分化したカラーシステムによる色票集や教材の開発(賛助会員との共同企画)
我が国でよく用いられているヒュートーンシステムとしてPCCSがありますが、PCCSの色票集は「ハーモニックカード201」の201色が一般的であり、日本ではこれまで教育用とて浸透していますが、色彩設計の実務家からは色数が足りないという指摘を受けていました。色数を増やした設計用色票集としてChromaton707やCOLOR INDEX 500などがありますが、これはPCCSの構成基準をもとに色数を最大限に膨らませた色票集といってよいでしょう。また、これ以上色数を増やす必要性について疑問視する向きもありました。
色彩設計の現場の要望を反映させた2,000~3,000色のヒュートーンシステムの色票集を製作するためにはトーンの定量的な定義と設計現場における有用性が示されなければなりません。トーンを細分化したヒュートーンシステムの開発については、以前から色研の賛助会員企業の依頼があり共同で進めていましたが、2011年度は48色相・52トーンの約2,500色の暫定的色票集を作成し、各方面のご意見を伺いました。そのなかから抜粋した色で 製作したMAKE UP COLOR CHARTは現在、化粧品の色彩調査用色見本として使用されています。また、トーンの定量的定義も骨子は完了し、標準仕様として48色相、62トーンのカラーラインナップが完成しました。
本年度は、このカラーシステムを用いて実用性の高い色彩設計用色票集や教材を開発します。
教育関連
(8)教材「CD‐ROM版色彩」の制作
1991年から「色彩スライド集全5巻」を制作頒布しましたが、2007年には「第5巻-色彩実態調査と色彩設計-」を除いた4巻分についてCD-ROM版として頒布しています。制作から20年たち、LEDなどの新たに開発された技術や最近色研で取り組んでいる人間工学的なソリューションなどを追加収録する必要性や、スライドでは表現できなかった動画を使ってより魅力的でわかりやすい画像に改訂できる可能性も生まれてきました。CD-ROM版に変更した際、すでに年代を感じさせる事例が多く収録を見送った第5巻についても新たな事例を収録し、時代の要求に応じた色彩教材として説得力のあるビジュアル資料を提供します。
〈赤木 重文〉