episode1:PCCS(日本色研配色体系)とは
PCCS(Practical Color Co-ordinate System)は、色が私たちに与える感情効果を、色相(Hue)とトーン(Tone)の2つの系列で整理し、系統的に構成したHue-Tone Systemであることが大きな特徴になっています。マンセル表色系などは、色相・明度・彩度の3つの属性により色を表しますが、PCCSではHueとToneの2つ軸で色を系統的に表示することができるので、色の世界を一望することができることに加えて、色同士の関係性が把握しやすいために、色彩調和や配色分類などの考案がしやすいという特徴をもっています。
もう一つの特徴は、系統色名としての色名系の表示システムも内蔵していることです。色彩の実態調査を行う際には、出現した色を如何に分かりやすく客観的に集計・分析し、人に伝えられるかが重要になるわけですが、Hueと色の調子であるToneでまとめたPCCSは、その構造の中に色名系を併せ持っているため、系統的にまとめられた色名系レベルでの集計や色のイメージの伝達に優れたカラーシステムであるといえます。
(1) PCCSの色相
図1 PCCS色相環
PCCSの色相は、私たちの色覚を成立させる主要色である赤・黄・緑・青の4色相を基本として色相環を組み立てています。色相環は24色相からなりますが、この主要4色相に対する心理補色を色相環の対向位置に置き、さらに色相環上の3等分割に当たる位置に、色料の三原色(黄、緑みの青、赤紫)を配置しています。以上を各色相と使用頻度の高い赤から黄にかけて分割を細かく内層し、各色相の間隔がなるべく等しく見えるようにしています(図1)。
24色相にした理由は、2色配色、3色配色、4色配色などを考える場合に色相環の中から規則的に配色を選択できるようにしたためで、色彩調和を目的としたものといえます。
(2) PCCSのTone
Toneとは、「明度と彩度を複合した色の調子」のことをいいます。様々な色相の等色相面を眺めると、色相が異なっていたとしても、等色相面上の位置によって同じ印象を醸し出すことが分かります。例えば、明度が高く、低彩度の場合には、どの色相でも「淡い」、最も高彩度の色は「鮮やかな」という共通の印象があります。このような印象をもとにして系統的に分類したものがToneになります。図2にはトーン図を示しました。
図2 Tone図
Toneは「うすい」「ふかい」「にぶい」など、色相が異なっても共通のイメージを有している、つまり色のイメージと直結しているので、「薄くて可愛らしい色使いでインテリアの色を揃えたい」というときには、paleトーンの中から色を選択すればよいということになり、色彩調和や色彩設計を考える場合には非常に便利なツールとなります。
さらに、PCCSトーンの特徴として、全てのトーンは、黄色を最高明度、青紫を最低明度にして明度が滑らかに移行するように色を選択しているので、同一のトーンでは印象の共通性と明度諧調による変化から構成されていることになります。調和が生まれる考え方の一つである「統一と変化」をすべてのトーンで備えているため、異なる色相を組み合わせても、色相の自然連鎖(Natural sequence of Hue)により、「統一と変化の適度なバランスを持った調和が生まれる」ことになります。
(3)系統色名
慣用色名や固有色名は、事物・人物等の色から付けられた色名になるため、二つの色名が同じ色を示すこともあり、色名を聞いただけでは色をイメージしにくいものや、さらには色名では表されていない色領域も存在します。一方、系統色名は色空間全域をルール(誰もが知っている色名に簡単な「うすい」「濃い」などのトーンを表す修飾語をつけて表す)に基づいて色名によって表示するため、色名のない領域がありません。例えばHue-ToneSystemでlt2(ライトトーンの色相番号2)と表される色は、系統色名では「(標準的な)ピンク」となります。あらゆる色域を誰もがイメージしやすい一意の色名で表せることは、色を伝達・表示するのに有効な表示システムであるといえます。
色彩の調査では、1点1点の色の正確な値を細かく問題にすることは少なく、ある色彩範囲をブロック別にまとめて、その出現の傾向を問題にすることが多くあります。そのため、そのブロック別の色領域区分を決め、そのブロック名称が誰にでもわかるような実感を伴った名前を付けることが望ましいといえます。そこで便利なのが系統色名ということになるわけです。PCCSの系統色名は、用途に応じて大まかな範囲を示すものから、かなり狭い範囲の色を表すものまで段階的にまとめることができる階層構造を有していることが特徴として挙げることができます。
最も大まかな基本色のように用いられている色名をPCCSでは基本色名として16色(赤・ピンク・橙・ブラウン・黄色・オリーブ・黄緑・緑・青緑・青・青紫・紫・赤紫・白・灰色・黒)を設定しています。16分割では色の分類や分析を行うにはあまりにも大きすぎるという場合には大分類を用います。大分類とは基本色名にベージュ・オリーブグリーン・スカイなどといった一般的に色系統を示す慣用的な色名を加えたものになります。
製品色の推移などを整理してみると、Toneの変動が思いのほか顕著であるケースが多く見受けられます。そのような場合には中分類や小分類を用います。中分類は大分類にトーンの中別といわれる区分を組み合わせたもの、小分類は色みの偏り(8種類)とトーンの細別を組み合わせたもので、この小分類が最も細かな色名による区分法に相当します。
これまでは、基本分類を16色、大分類を25区分、中分類を92区分、小分類を235区分に定めていましたが、時代とともに慣用的に使われなくなってしまった色名が大分類の中にあることや、微妙な色みの違いにも敏感に捉えられている状況を鑑み、現在では大分類が22区分、中分類を94区分、小分類を258区分に見直しを図っています。
<修正を行った色名区分>
以前はGoldが含まれていましたが、主に金属感を伴う表現であることから、名称を削除しました。また、現在ではあまり慣用的に使われなくなったlavenderやlilacの名称を、purple blue(violet)やpurpleにトーン名称を付けた表現に変更しています。
以前、beigeはpaleトーンのみに使われる色名でしたが、lightgrayishトーンにもbeige領域を追加するなど、全体で94区分としています。
各大分類について、基本的に色みの偏りを追加し、以前よりも細かな色名区分を採用し258区分としています。
(4)調査用カラーコードアトラス
図3 調査用カラーコードアトラス
系統色名の範囲区分を表した、いわば色の地図が調査用カラーコードアトラスです。普通、地図というと、緯度経度に基づいて示されますが、色彩の緯度経度はマンセルの色の三属性であり、その中に系統色名区分が示されます。そのため、マンセル値が分かれば系統色名への落とし込みができるようになっているのです。図3には調査用カラーコードアトラスの1つのチャートを示しましたが、この中には大分類、中分類、小分類の3種類の分類方式による区分が示されています。色相によって全部で26チャートに分かれていますが、このチャートを用いることで、HueとToneの特定も可能になっているのです。
現在、(3)で示したPCCSの色名区分の修正に合わせて、調査用カラーコードアトラスも修正が行われました。詳細区分については、「PCCS Color Calc」(製作:日本色彩研究所)という色彩集計ソフトに示されていますので、興味のある方は参照していただきたいと思います(「PCCS Color Calc」の紹介動画については色彩研究所のHPをご覧ください。)
(5)PCCSの便利な使い方と活用法
以上をまとめると、PCCSの活用法として次の3つを上げることができます。
HueとToneによって色のイメージが付きやすく、色彩調和を考えやすいことに加えて、配色形式の分析なども行うことができる。
系統色名の表示システムにより、全ての色の領域に対して、色の伝達・表示ができることはもとより、色の消費動向や出現傾向など、色彩の実態調査や集計・分析のツールとして活用できる。色彩データの集計や作図は、これまでマンセル値から系統色名への変換を手作業で行ったり、色相環やTone図を自作して図示する必要があったりと作業が専門的になりがちでした。しかし、先述の色彩集計ソフト「PCCS ColorCalc」では、自動で集計や作図ができる機能があり、より集計が手軽に行えるようになっています。
心理補色やToneの考え方、物体色の三原色など、色彩の基本的な考え方が含まれているので、このシステムを理解することにより、色彩の基本的な知識を習得することができる。PCCSに基づいた色票集を色彩教育の教材として活用することで、さらに理解が深まる。
(6)新たなPCCSの展開に向けて
PCCSはHue-Tone Systemであることと、色名系を内蔵していることを上述しました。系統色名系については修正を加えているところですが、彩度の設定やTone分割についての検討もし始めています。PCCSの彩度は、色相が異なっても同じような鮮やかさ感を有する最高彩度の色を9sと定めて、そこから無彩色に対して等間隔に感じられる彩度値を1s、2s・・・に分割しています。この9sの基準値はこれまで一度も改訂されることはありませんでしたが、PCCSの誕生当初の「最も鮮やかだ」と感じる彩度感は、現代のように非常に高彩度の色に慣れている私たちの彩度感とは若干異なることが予想されるからです。
また、Tone分割についてですが、現状で最も細かいTone分割で12分割(有彩色Tone)にとどまっています。色彩設計や色の集計をする際に、やや大まかすぎるのではないかという要請も出てきています。今後も時代の動向に合わせたカラーシステムを目指して、修正やツールの開発を進めていきたいと思っています。