一般財団法人日本色彩研究所

<四方山話>青い光の下には

pen COLOR No.163掲載

2008年4月から40歳~74歳の健康保険加入者に対するメタボ検診実施が義務化されて、毎年その時期になるとダイエットを始めるものの、なかなか続かないという方も少なくないのではないでしょうか。以前(Color158)、お皿によるダイエットをご紹介しましたが、お試しいただけましたでしょうか。これまで「お皿を替えて痩せた」という反響は全くありませんが、懲りずに、今回も新しい減量方法を一つご提案したいと思います。

今回ご提案するのは、青い照明で食事をする、名付けて「♂男性限定♂ブルーライトダイエット」です。
S. Cho, et al. (2015)*1の研究で、「青い照明は食事の摂取量を減少させたが、その効果は男性だけで女性には見られなかった」という結果が報告されました。以下に、この研究の概要をご紹介したいと思います。

実験では照明の色の効果を見るため、先行研究から、食べるモチベーションを高める「黄」と低める「青」を実験条件として、「白」を統制条件として選んでいます。
この参加者は全員白人で、色覚や健康に異常がない男性62名、女性50名で、彼らの平均年齢は32歳でした。彼らを照明色3条件のいずれかに配分しましたが、各群の平均年齢、BMI(肥満度)、男女比率には差はありませんでした。

参加者はいずれかの色のLED照明のブース内で、朝食を好きなセけ食べるように求められますが、食事時間の午前7:30~8:30の12時間前から水以外のものは摂取しないよう制限されていました。
参加者の食事は、ハム&チーズオムレツ2個、ミニパンケーキ8個、水120mlを白いプラスチック製の皿、コップ、フォーク、ナイフと共に与えられました。与えられた食事の総量は884gで、総カロリーは1940kcalになりますが、日本人の30~69歳女性の身体活動レベルII(ふつうの労働)の1日の必要カロリーが2000kcalとも言われていますので、かなりの量になります。完食した人がいたかどうか分かりませんが、食べたいだけ食べて、残した量を測って、食前の量との差が摂取量となります。
摂取量の測定とは別に、参加者は食前に「食事の見た目の快・不快感」「食欲の程度」、食後には「全体的な風味の程度」「全体的食事の印象」「現在の空腹/満腹の程度」についての評価を行いました。
実験の結果、「食事の見た目の快・不快感」に関しては、「青」は「黄・白」に比べて有意に不快に感じるようです(確かに論文に掲載された写真では、青い照明下の食事はかなりイケません)。しかし、「食欲の程度」に関しては、12時間の摂食制限で空腹だったせいか、男女とも照明色の影響を受けませんでした。また、食後の評定でも、男女とも照明色による有意な差は認められませんでした。

さて、肝心の照明色による食事の摂取量ですが、照明色による影響に明らかな性差が見られました。男性では、「黄」や「白」の照明条件に比べて、「青」の照明条件下で明らかに摂取量の減少が観察されたのですが、女性ではどの照明条件でも全く差が見られないという結果が得られました(図1)。女性は、照明など周囲のことには惑わされず、必要な物は必要なだけしっかりモノにするということでしょうか。

青い照明にすることで、見た目は多少悪くなりましたが、食事に対する全体的な印象をそれほど変えることなく、摂取量を減らすことができたという結果は、食べ過ぎる人(男性)の減量に積極的に利用することができるかもしれません。現在でも貧困に苦しむ地域がある一方で、肥満は世界的に蔓延する重大な健康問題となり、国家の経済的な負担にもなっています。照明の色を変えてみるという、比較的簡単で安上がりな方法を試してみることは、過度の食料消費を減らし、家計ばかりではなく国家財政を助けることにつながるかもしれません。

図1 男女別の照明色による平均摂取量[S. Cho, et al. (2015)より作成]
男性は青と白に5%水準、青と黄に0.1%水準で有意差が認められましたが、
女性ではどの条件間でも有意差は認められませんでした。

「青い光」に関して、もう一つ最近気になった記事をご紹介したいと思います。

こちらはご存じの方も多いと思いますが、昨年12月に東北大学大学院農学研究科により発表された「青色光を当てると昆虫が死ぬことを発見」*2, *3という研究です。 
UVC(100~280nm)、UVB(280~315nm)といった紫外線には生物に対して強い毒性があるので、殺菌などに用いられることは一般に知られていると思います。しかし、この研究で驚くべきことは、可視光の範囲にある青色光に、昆虫に対する強い毒性があるということなのです。
様々な波長のLED光を昆虫に当てて、その殺虫効果を調べたところ、ショウジョウバエのようなある種の昆虫にとっては、紫外線よりも青色光のほうが高い殺虫効果が認められました。昆虫の種類によって殺虫効果が認められる青色光の波長は異なりますが、そのメカニズムは、ヒトの目に対する障害メカニズムと似ていると推測されています。種によって異なる波長の(青色)光が昆虫の内部組織に吸収され、活性酸素が発生することで、細胞や組織が障害を受けて死亡に至ると推測されています。
この技術を応用できれば、農薬などを使わないクリーンな害虫防除装置の開発などが促進されると考えられています。
ただ、この記事を読んで青色光の威力を改めて認識すると、何故か自分の目が心配になってきましたが、皆さんはいかがでしょうか。

Reference

  1. Sungeun Cho, Ashley Han, Michael H. Taylor, Alexandria C. Huck, Amanda M. Mishler, Kyle L. Mattal, Caleb A. Barker, Han-Seok Seo. (2015). Blue lighting decreases the amount of food consumed in men, but not in women. Appetite, 85, 111-117
  2. 東北大学プレスリリース. (2014). 青色光を当てると昆虫が死ぬことを発見~新たな害虫防除技術の開発に期待~
    http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2014/12/press20141209-02.html
  3. Masatoshi Hori, Kazuki Shibuya, Mitsunari Sato & Yoshino Saito. (2014). Lethal effects of short-wavelength visible light on insects. Scientific Reports, 4 : 7383, DOI: 10.1038/srep07383

〈江森 敏夫〉