<研究1部報>隅田川五橋の色彩計画
COLOR No.164掲載
2014年度および2015年度に隅田川中流部に架かる5つの著名橋の色彩計画が、東>京都建設局によって実施されました。色彩計画は委員会方式で進められ、計3回の審議の結果、各橋梁の色彩が決定しました。昨年9月末には色彩計画の方針や結果の概要をまとめたパンフレットも発行されています。当研究所は本計画のコンサルタントとして参加いたしましたが、ここでは、そのパンフレットを引用して、この色彩計画の概要を紹介いたします。
隅田川五橋色彩計画の考え方(パンフレットより)
本計画の対象は、隅田川中流部に架かる関東大震災復興橋梁である白鬚橋、吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋の五橋です。
東京都の景観計画等では、地域周辺の歴史・文化、賑わいとの調和が唱われています。本委員会では、これらと整合性のとれた【基本理念】と、その実現のための【基本方針】を立案しました。
隅田川著名橋の色彩は、昭和59 年に「隅田川著名橋整備計画*1」の一環として検討され、そこで各橋梁の色系統が決定しています。しかし、現在の周辺環境は大きく変貌を遂げています。そのため、本委員会では、周辺建造物の色彩の使われ方や、様々な視点場からの橋の見え方を調査分析し、再検証しました。
また、震災復興橋梁としての歴史を未来に伝える色彩を検討するため、塗装色の履歴についても調査分析を行いました。
その結果、今回の色彩設計では、橋を主構造と付帯構造物に塗り分け、主構造には慣れ親しまれている色彩をテーマカラーとして設定し、付帯構造物には歴史性を感じさせ、さらに景観性に配慮した色彩を採用しました。
〈基本理念〉
これまでの色を再検証した上で、地域の歴史・風土を活かし、橋の品格や個性が感じられる色彩とする~橋の多様な構造と色彩によって、隅田川の美しい景観を創出する~。
〈基本方針〉
- 橋ごとの個性を活かした色彩
- 地域に慣れ親しまれている色彩
- 地域の歴史・風土を活かした色彩
- 品格ある落ちついた色彩(彩度を抑えた色彩)
- 橋の歴史を未来に伝えていく色彩
*1「隅田川著名橋整備計画」の色彩検討(昭和59年)
隅田川震災復興橋梁の整備計画の一環として、街のシンボルとなる橋の色彩計画を検討し、〈白鬚橋:白、吾妻橋:赤、駒形橋:青、厩橋:緑、蔵前橋:黄色〉の色系統が選定されました。
架設までの略歴と新色について
白鬚橋
橋名の由来:橋の東岸にある旧寺島村の鎮守、「白鬚神社」の名に由来しています。
略歴:隅田川最古の「橋場の渡し」
1914年(大正3年)木橋架設
1931年(昭和6年) 東京府が現橋を架設(架け替え・都市計画事業)
新色とそのねらい:
アーチには、これまでの色を継承し、ライトグレイを用いました。 高欄の色はアーチとコントラストをつけ、水平ラインを引き立たせることで、橋の力強さを表現しました。
吾妻橋
橋名の由来:江戸の東にあるため東橋と呼ばれた説と、向島の吾嬬神社に通じる道のために「吾妻」となった説があります。
略歴:江戸時代「竹町の渡し」
1774 年(安永3 年)木橋架設(江戸期隅田川最後の橋)
1887 年(明治20 年)隅田川初となる鉄橋の架設
1923 年(大正12 年)関東大震災で被災
1931 年(昭和6 年)東京市が現橋を架設(架け替え・震災復興事業)
新色とそのねらい:
アーチには、これまでより彩度を落とし、周辺で使用されている弁柄色を採用しました。
分離柵と照明灯には、周辺との調和を図るため、オフグレイを採用することとしました。
駒形橋
橋名の由来:公募により、橋詰にあった駒形堂にちなみ命名されました。
略歴:江戸時代「駒形の渡し」
1927 年(昭和2 年)復興局が現橋を架設(新設・震災復興事業)
新色とそのねらい:
アーチには周辺環境と馴染みやすい落ち着きのあるブルーを用い、高欄には復興当時の色を採用しました。照明灯にはアーチと同じ色みを帯びたオフグレイを用いることで、橋全体の統一感を確保するとともに、橋を通行する歩行者にとっての視覚的な煩雑さを低減しました。
厩橋
橋名の由来:西岸にあった御厩河岸(蔵前の米蔵の荷駄馬用の厩)に由来します。
略歴:江戸時代「御厩河岸の渡し」
1874年(明治7年)木橋架設
1893年(明治26年)鉄橋(トラス)架設
1923年(大正12年)関東大震災で被災
1929年(昭和4年) 東京市が現橋を架設(架け替え・震災復興事業)
新色とそのねらい:
アーチには周辺環境色に馴染みやすい黄みを帯びたグリーンを用い、シンボル性を高めるために、周辺の建物に対して適度なコントラストがつく明度としました。高欄や分離柵にはアーチと同じ色みを帯びたオフライトグレイを用い、橋梁全体の統一感を演出しました。
蔵前橋
橋名の由来:公募により、江戸時代に幕府の米蔵(浅草御蔵)があったことから命名されました。
略歴:江戸時代「富士見の渡し」「御蔵の渡し」
1927 年(昭和2 年)復興局が現橋を架設(新設・震災復興事業)
新色とそのねらい:
アーチには、これまでよりも彩度を落とした黄色を採用し、品格が感じられる色彩にしました。高欄には復興当時の色を偲ばせるアーチと同じ色みを帯びたオフライトグレイを用い、周辺景観との調和や橋梁全体の統一感を演出しました。
五橋の塗り替え
五橋の塗り替えは、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に間に合うように随時施工予定で、最初は蔵前橋の着工となります。先日、委員を含め関係者が現地に集合し、大判の塗装見本を確認しながら意見交換を行いました。年内には新しい色彩を纏った蔵前橋が誕生します。
塗装色の確認
〈赤木 重文〉