一般財団法人日本色彩研究所

<研究2部報>異種光源下で観察される色票の三刺激値計算手順 その4

pen COLOR No.165掲載

JIS標準色票[1]の範囲内にある実在色は、主成分分析で導出される平均ベクトルと3つの主成分ベクトルの合成による分光反射率分布の推定が可能である。しかし、この範囲外にある高クロマ領域では、分光反射率分布が0~100%の範囲内に収まらないため、物体色の条件を満たさない問題があることを前回紹介した[2]。

図1はマンセル表色系で規定される三刺激値から主成分分析の手法により推定された分光反射率分布である。5G 5/10はJIS標準色票の実在色であり物体色条件を満たすが、5G 5/16の高クロマ色は、長波長域が0%以下で満たされないので補正方法を考える。

図2は最明色・無彩色・および主成分分布により推定された分光反射率分布の合成(C光源下・明度5)の模式図であり、最明色軌跡(MacAdam limit)が点線で示されている。無彩色Cから高クロマ色Pに向かい同一明度で刺激純度が高くなり、その延長線上の最明色軌跡上に存在するのが最明色Qである。3色は同一直線上にあり、最明色Qと無彩色Cの加法混色的な合成により物体色条件を満たす高クロマ色Pの分光反射率分布が得られるので、主成分分析により推定された5G 5/16に対する補正への適用が可能となる。 補正には、(a)最明色Q・(b)推定P・(c)無彩色Cの3つの分光反射率分布について、物体色条件を満たす定数をそれぞれ選択すればよく、(b)推定Pを補正するよう合成された(d)合成Pが導かれる。だが、この分光反射率分布は急峻な立ち上がり特性をもつため、異種光源下の色度特性への影響が大きくなってしまう。原因は最明色の分光反射率分布の形状にあるので、次回は、なだらかな形状をもつ準最明色による高クロマ領域の分光反射率分布の推定について紹介する。

図1 主成分分析により推定された分光反射率分布
図2 最明色・無彩色・および主成分分布により推定された分光反射率分布の合成
(C光源下・明度5。点線は最明色軌跡)

参考文献
[1] JIS Z 8721準拠標準色票(光沢版), 日本規格協会, 1976.
[2] 側垣, 高浜, “マンセル表色系における高クロマ色の分光反射率分布の推定”, 照明学会誌, Vol.82, No.11, pp. 902-915, 1998.

〈那須野 信行〉