<コラム>淡い部屋の色では…
COLOR No.165掲載
皆さんは、普段どんな部屋で学習していますか?そして、その部屋で集中して学習できていますか?もし、集中できない、学習の効果が上がらないと感じているなら…もしかして、その部屋の壁は淡い色(pale color)ではありませんか?
Al-Ayash et al.は、部屋の色を変化させて読解力、心拍数の変化、感情的反応等について実験を行いました。実験に使用した色は、色相(hue)がRed、Yellow、Blueの3色相、白み(whiteness)はpaleとvividの2条件で、色相と白みの組合せで全6色でした。
この実験には24名の大学生と大学院生が参加しました。実験の参加者は控室で実験環境になれるために5分間過ごし、実験前の心拍数などを測定しました。その後、実験用の部屋に移動して色を変えた壁に向かって5分間集中し、色彩感情、心拍数の測定、読解課題等を行いました。各参加者は1日1色、1日間を空け、6色について繰り返し実験に参加しました。
読解課題の成績は、白みの効果は統計的に有意な差があり、pale条件に比べてvivid条件で高くなりました(図1)。一方、色相による効果は認められず、Red・Yellow・Blueに有意な差はありませんでした。また、色相と白みの交互作用も認められませんでした。この結果は、濃い色のオフィスに比べて、淡い色のオフィスでエラーが多かったという先行研究の結果とも一致していました。また、この結果は鮮やかな色は淡い色よりも覚醒させるという考えとも一致します。vivid条件は課題の最適レベルまで覚醒を増大させるので、成績を向上させたとも考えられます。これは、生理心理学の基本法則であるヤーキーズ・ドットソンの法則*と合致します。
心拍数には白みの効果は見られず、pale条件、vivid条件の間に有意な差は得られませんでした。しかし、色相の主効果は有意で、白みに関わらず、RedとYellowは心拍数を増加させ、Blueは心拍数を減少させました。この結果は、部屋の色が人の生理的反応に影響していることを示しています。
色彩感情の結果では、pale条件の色はvivid条件の色よりも、全体としてリラックスでき、穏やかで、快適であるという肯定的な反応が得られました。この結果は、明度(白み)の高い色は、肯定的な感情と結びついているという先行研究とも一致しています。興味深い点は、参加者はpale条件に肯定的な感情を持ち、学習に適していると評価しているにも関わらず、実際の学習課題(読解力)では、vivid条件の方がスコアは高くなっているということです。実験の参加者は、pale条件ではリラックス、平穏が感じられたと報告しており、その感情が参加者を非活動的・非精力的にしたことで、学習意欲が向上しなかったのかもしれません。
もし、部屋が淡い色で、学習意欲が上がらない、成績が上がらないとお感じになったら、壁の色を鮮やかな色に変えてみるのはいかがでしょうか。俄然学習意欲が湧き、成績アップ…なんてこともあるかもしれません。
某刑事警察機関を舞台にしたアメリカドラマで、その機関の壁が鮮やかなオレンジで、なぜあの色なのだろうと不思議に思っていましたが、もしかしたら、そのような機関では鮮やかな色の効果を利用しているのでは?と勝手に納得してしまいました。
*ヤーキーズ・ドットソンの法則 (Yerkes-Dodson’s Low)
生理心理学の基本法則で、学習活動に対する動機づけは適切なレベルにあることが必要であるとする理論。一般に覚醒レベルが高くなるに従ってほぼ比例的に効率は増すとされています。
Reference
1. AL-Ayash, A., Kane, R. T., Smith, D. and Green-Armytage, P. (2016). The Influence of Color on Student Emotion, Heart Rate, and Performance in Learning Environments. Color research and application, 41, 196-205
〈江森 敏夫〉