<巻頭言>色が「つなぐ」
COLOR No.168掲載
一般財団法人日本色彩研究所 常務理事 赤木 重文
一昨年の9月、私は様々な理由から研究所と兼務する形で日本色研事業株式会社のお手伝いをすることとなった。
事業会社は、色彩研究所の成果を世に送り出すために、昭和40年に創立され、現在まで様々な教材や資料集などを製造・販売してきた。主に学校教育における色彩の学習や、企業の色彩ソリューションのサポートを念頭に入れて教材開発を行っているが、もともと色彩研究所が助成している色彩教育研究会と歩を一にするところがある。色彩教育研究会は戦前の色彩協議会を引き継いで戦後色彩教育研究会として改組し、現在は日本色彩教育研究会として活動している団体である。改組前および改組当初から学校教育における色彩学習の扱いが議論され、その成果は事業会社が発行するテキストや教材を通して主に図画工作や美術の教科に生かされてきた。
この1年半余り、教材製作や書籍を発行する事業会社の立場から色の教育的特性や産業界のニーズなどに目を向けるようになってきたが、それ以前から感じていた社会的基盤を整備するための色彩の役割としてのキーワード「つなぐ」「関係」ということの重要性を、改めて強く感じている。
もともと、私たちが日常的に目にする環境の色は単色で知覚することはなく、その色の評価も多くの色の組合せによるが、この最も基本的な事象が色の「つなぎ」「関係」を示すものであろう。
また、色彩は様々な分野で扱われているテーマであり、これまでの受託研究業務の多くはそれぞれの専門分野におけるソリューションが求められるものであったが、最近は分野を超えたプロジェクトチームによって取り組む事例が増えてきている。さらに、製造業の業務スタイルが工程ごとのバトンタッチ方式から各部署においても全工程を視野に入れたマネジメントの流れの中で進めていくプロジェクト方式に変わりつつある。その中で色彩は実態調査→カラーデザイン設計→色彩管理→カラー・プロモーション、と全工程を「つなぐ」要素として現れ、プロジェクトの一貫した進行を支援する。
昨年、色彩の学習を通して「つなぐ」ことの重要性を強く感じた体験をした。事業会社発行の副読本テキストの改訂版を企画するにあたって、最近注目されている色彩学習の現場を取材した。子供たちの生活基盤である地域の色を探し見つめ直すという学習で、大分大学、(公財)大分県芸術文化スポーツ振興財団(大分県立美術館)、県教委が科研費を受けて「地域の色・自分の色」をテーマに行っている研究事業である。身近にある石や土を採取し、ハンマーで打ち砕き篩にかけてパウダー(顔料)を作り、小学生は水彩絵の具、中学生は油絵の具を作る。石からパウダー状の顔料をつくるのは、小学生には無理だろうという思い込みが強かったが、女の子でも意外と普通にできている。砕いて擂り潰す単純作業を黙々とこなす生徒の集中力に驚きを隠せない。
石のままでは気づくことが少ない色も顔料として取り出すと、地域にある色としての意識が強まる。グレイ系もブラウン系も様々なニュアンスを持って多様であることが実感できる。
地域の色という意味では、景観の色まで包含して考えることができるが、地域づくりという視点にこの体験的学習の成果を反映することができれば、景観行政の貴重なデータ「地域カラーパレット」となる。景観を担当する行政の方に見てもらいたいと感じた次第であるが、これも色の「つなぐ」であろう。
このような体験を通して色の「つなぐ」が社会を進化させるという予感を持つに至ったのも、研究所と事業会社を新たに「つなぐ」というころから生まれてきたのかもしれない。