一般財団法人日本色彩研究所

<新人紹介>色彩研究所に入所して

pen COLOR No.169掲載

「憧れは理解から最も遠い」という言葉をいつかツイッター上で見かけた。もしそうなら、私はそこから地球の裏側あたりにいることになるだろうか。色彩に深く関わる仕事をしたいという念願叶って北海道から日本色彩研究所に入所して半年が過ぎ、私は日々色彩の理解へと近づけているだろうか。
入所して今まで、驚いたことは色研が携わる業種が想像以上に広いことである。食品や衣料、工業製品、景観など多岐に渡り、その業種の視点における色彩を知る必要がある。自身が専門とする認知心理学の研究ではつながることの無かったであろう分野もあり、調査には幅広い知識が求められる。元々、私はカラーカードを見るだけでも幸福感を得ることができる性分のため、新しい案件の話を聞くたびに今まで知ることのなかった分野と色のつながりを学べるとワクワク感からニンマリしそうになる。が、そんな顔を引き締めて机に向かっていることは内緒である。色研の先輩や上司の方々は穏やかでありながらエネルギッシュな方ばかりで、穏やかな顔で日々怒涛の量のマルチタスクをこなしていく。その姿を知るほどに、先輩方の背中は大きく、また遠近法に反してまだまだ遠くに感じる。一方、いわゆる心の距離はありがたいことに近くに感じさせていただいている。業務に関する質問にも自身の経験や知識を惜しみなく伝えてくださるし、セミナーや勉強会への参加も推奨してくれる。色研に保管してある、色彩分野にとって重要な文献を紹介してくれる。色研は人もデータも宝の山である。今はできるだけ多くのことを吸収し、先輩方のようにプロとしての責任と色へのこだわりを持って業務にあたりたい。研究所が目指している先を、先輩方と少しでも近い視点で見られるよう研鑽を積んでいきたいと思う。頭の中の幻想で満足する憧れではなく、目標への道標にするのなら、憧れから始まる道もわるくない。
近年は地震や台風など災害の報に胸が痛むことが多い。故郷の北海道でも9月に大きな地震があった。社会においてどんなことができ得るのか、模索し続けることを諦めないことが研究者の責務であり矜持だと思う。灰色に見える雲も、弱い光だけれどすべての色が溶けこんでいると思えば少し違って見えるかもしれない。

〈佐々木 三公子〉