<研究1部報>新しいカラーシステムの開発
COLOR No.161掲載
日本色彩研究所では現在、様々な分野の色彩計画のためのツールとして、汎用性の高い新カラーシステムの開発を進めている。
実はこの開発の源流は1980年代に遡る。株式会社中川ケミカルのNOCS(Nakagawa Original Color System)が発表されたのは1990年であるが、これは当研究所が1987年に刊行したカラーチャートChroma Cosmos 6000がベースとなっている。Chroma Cosmos 6000は色の三属性HVCを基準に6000色のカラーチップで構成された色見本集である。1990年発表のNOCSは、このChroma Cosmos 6000を色相とトーンの2軸を基準に再構成したカラーシステム(NOCS2500)で、1995年にはそこから296色を選定した商品が発売されている。
このシステムの基準値の求め方であるが、色相についてはChroma Tone 6000の基準に従い、等色相断面は同じマンセルヒューの記号で表される色で構成されている。同一トーン系列の設定にあたっては、三属性との法則性などを加味しながら、色見本を観察しつつその色値を定めている。このNOCS2500およびChroma Cosmos 6000が現在開発を進めている新カラーシステムの背景にある。
色彩計画に用いるカラーシステムの具備要件
新カラーシステムの開発にあたっては、色彩計画の各ステップにおける活用シーンを想定し、カラーシステムが具備していなければならない要件を整理した。
色彩計画とは、様々なデザインや設計における造形活動の計画において、与えられた課題を特に視覚の側面からその解決に向けて取り組むものである。
様々なデザイン分野で検討される「色彩」は「形状」と比較すると、副次的な扱いを受けることがあり、色彩自体を消耗品のような印象で捉えられる場合も多く見受けられる。しかし、一度世の中に出た色彩はかなりの長期にわたって環境を構成し、そこから受ける印象を左右する要素として存在することが多い。
色の決定は納得のいくコンセプトのもとに、「系統的でマクロ的な視点」と「細かい色の差を丹念に見比べるミクロ的な視点」の両面の視点による検討が必要となる。
色彩計画は、色の調査・分析から色彩設計、色指定、色彩管理までの全工程を指す。そして、それらのステップを一連の流れとして進めなければ、色彩計画の目的は達成できない。そして、それを実現するためには系統的に組織化されたカラーシステムとそれに基づいたカラーチャートが必要となる。いくつかのカラーシステムによるカラーチャートが刊行されているが、未だに色管理の不十分な色見本が、印刷物以外の色指定に用いられることがある。
カラーシステムに基づいたカラーチャートとは、人の視知覚の特性に従って系統的に構成された「色彩体系」によって具現化された色票群であり、1色1色が基準値を持つ。このような特徴を持ち汎用性の高いデザイン検討用色票集が色彩計画には不可欠のツールであり、このツールにより色彩計画全てのステップを一連の流れとして進めることが可能となる。
私たちは色彩計画の様々なシーンで共通して使用できる汎用性の高い新しいカラーシステムとカラーチャートの開発に取り組み始め、前述したように1990年にNOCS2500を発表した。これは特定のトーンのみの基準値を備えたシステムであったが、2012年にはトーンを決定するパラメータを設定することにより、同じトーン系列の色が色相ごとに生成できるとともに、任意のトーンを無段階に抽出できるアルゴリズムを完成した。
このようにアルゴリズムを備えたカラーシステムにより、48色相60トーンからなるプロトタイプのカラーチャート標準モデルの色値を定めた。
新カラーシステムとカラーチャートの特徴
新NOCS標準色票(仮称)はあらゆる分野で色選びの基準になるカラーチャートとして、色彩空間全体の中から、バランス良く実用に十分な色数を備えている。
さらに新NOCSシステムの構成基準として開発された色値生成アルゴリズムにより、各業界の色見本やカラーコードとの翻訳機能を備えたユーザビリティの高いシステムとなっている。また、色ごとにマンセル値等の数値データや色情報を格納しており、各業界カラーコードの垣根を越えて、あらゆる分野で色選びの基準になるように設計されている。ヒュー&トーンシステムを採用した二軸表現は、色彩調和やカラーイメージとの対応も取りやすい特徴がある。
このように系統的なシステムはアーカイブス的なデータによる検討を可能にし、人間の感覚のみに依存することの多かった色彩設計を提案力の高いものにする。
新NOCSが分かり易く扱いやすい実用的なカラーシステムとして、日本から世界に発信する統一カラーコードに成長することを願いつつ、現在カラーシステム運用ツールの開発制作を進めている。
〈赤木 重文〉