一般財団法人日本色彩研究所

<コラム>濃い色のビールは美味しい?

pen COLOR No.171掲載

これがお手元に届く頃はすでに師走、今年も残すところ数週間となっていることでしょう。ということは、これから忘年会シーズンの最盛期を迎えますが、準備はいかがでしょうか。忘年会では「とりあえずビール」ということで、ビールを飲む機会も増えるのではないでしょうか。
ところで、皆さんはビールの色の違いを気にされたことはありますか?ビールの色なんてどれも大差ないような気もする一方、飲み口やブランドイメージなどから色の濃さに違いがあるような気もしますが、もし違うとすれば、どの程度違うのでしょうか。本号の測色資料「ビールの色」の結果を見ると、黒ビール以外は色の違いはそれほど大きくはないことが分かりました。

測色資料では、一般的なビールの色はあまり差はありませんでしたが、もし、全く同じビールの色を変えたら、味や風味の印象は変わってくるのでしょうか?Reinoso Carvalho, F. et al.(2019)はビールから得られる快感や知覚的印象に対するビール外観の影響を調べるため、2つの実験を行いました。2つの実験で使用したのは淡色(SRM値:約10.2)と濃色(SRM値:約38.9)のビールで、色以外は全く同じになるように作成したもので、視覚的手がかりがない場合、その風味などでは区別ができないものでした。SRM値が淡色でも約10.2ということは、私達が一般的に消費しているビールのSRM値が4~6なので、それよりも濃い色になります。また、実験で使用したビールのアルコール度数は8%ということで、一般的な国産ビールの5%に比べて高いものでした。

実験Ⅰでは、参加者たちは淡色・濃色いずれか一方のビールを不透明なコップ(不可視条件)と透明なコップ(可視条件)という2つの条件で試飲し、各条件での味や風味などについて評価しました。すると、割り当てられたビールが淡色・濃色に関わらず、参加者たちは不可視条件で試飲した場合に、より風味が感じられると評価しました。
ということは、私達が飲んでいるどんなビールでも、透明なガラスのビールグラスに注いで飲むより、陶器のようなビールが見えないビールグラスに注いで飲んだ方が風味が良く感じることになります。それなら、缶ビールを直に飲めば中が見えないから、風味良く感じるかと言うと、そんなことはなさそうですね。

実験Ⅱでは、参加者は可視条件で淡色と濃色のビールをそれぞれ試飲しました。試飲前の期待評価と試飲後の印象評価を比較すると、試飲後には普段淡色ビールを好む人達は、淡色以外のビールを好む人よりも、濃色ビールを味が良いと評価しました。また、試飲前にどちらのビールがより高価に感じるか尋ねると、多くの回答者は濃色ビールを選びました。さらに、両ビールを試飲後でも参加者たちは淡色ビールと比較して濃色ビールに平均で6%も多く支払うことを厭わないと報告しています。どうも多くの消費者にとっては濃色ビールはあまり一般的ではなく、消費者はそれらをより高級で珍しいものと見做し、結果的により高価であるとみなす傾向があるようです。
また、Sugrue, M. et al.(2018)はアップルサイダー(アルコール飲料)を赤と緑で僅かに着色し、回答者たちに元のサイダーと比較させると、緑に着色されたサイダーはより低い温度で提供されたと知覚し、赤に着色されたものは風味が増したように知覚したということです。

これらの報告は、飲料や食品の味や香りは同じでも、色を変えただけで知覚される風味や快感、さらに価値の評価に大きく影響することを示唆しています。なんとも私達は見た目に騙されやすいのでしょうか。それならいっそ、いつも同じ味で飽きてしまったら、何か色だけでも変えて騙されてみれば、いつもと違った風味の深さなどが感じられて、逆に楽しめるかも…。
薄かろうが濃かろうが、美味しく、楽しく飲めれば、ビールの色などどうでも良いかもしれませんが、くれぐれも忘年会や新年会で飲みすぎないよう注意しましょう。

※SRM値は本号の測色資料「ビールの色」をご参照ください。

Reference
1. Felipe Reinoso-Carvalho, Silvana Dakduka, Johan Wagemans & Charles Spence.,Dark vs. light drinks: The influence of visual appearance on the consumer’s experience of beerFood Quality and Preference, 2019, 74, 21-29,
2. Meaghan Sugrue & Robin Dando.,Cross-modal influence of colour from product and packaging alters perceived flavour of ciderJournal of the Institute of Brewing, 2018, 124,254-260,

〈江森 敏夫〉