一般財団法人日本色彩研究所

<コラム>肌をキレイに見せるのは?

pen COLOR No.172掲載

私たちは他者の顔を見て、その人の年齢、健康、魅力さらには人となりまでをも読み取っていますが、その中でも肌の状態は重要な役割を果たしています。美しい肌は人を若々しく、健康的で、魅力的に見せるので、そのような魅力的な肌を特に女性は熱望しており、相当な時間とお金をかけて肌の見た目を改善しようとしているのではないでしょうか。

今回ご紹介する論文Russell et al. (2919)*1は、肌のシミや黒ずみを目立たなくし、さらにシワも少なく見せる要因について4つの実験を行っていますので、参考にしてみて下さい。

実験1では、23~34歳10名、38~45歳10名、51~59歳10名の計30名の白人女性の顔写真の眉、目、唇の色を操作し、肌と高コントラストの画像セットと低コントラストの画像セットを作成しました。高コントラスト条件では、眉毛と目は暗くし、目は赤みと黄みを減じ、唇は赤みを増し、黄みを減じました。低コントラスト条件では、逆方向の操作を行いました。加工を行った顔写真のサンプルはRussell et al. (2019)をご覧ください。

66人の学生に高コントラスト版と低コントラスト版の顔写真を半数ずつ提示し、「シミ、黒ずみの有無など、どのくらい肌が均一か(1:非常に不均一~7:非常に均一)」または「どのくらいシワがあるか(1:非常にシワが多い~7:非常に滑らか)」を回答させました。

その結果(図1)、「肌の均一性」についての評価は、顔写真被写体の年齢層とコントラスト条件に優位な差が見られました。つまり、顔写真の年齢では若いほど、コントラスト条件では高コントラストの画像の方が肌の均一性が高く評価されました。同様に、「肌のシワ」についての評価も年齢層が若いほど、そして高コントラストの方が高く評価されました。ここで忘れてはならないのは、目、眉、唇などの顔の特徴の色はコントラスト条件で逆方向に操作されていましたが、肌の状態(色・シミやシワなど)は両条件とも同じ、ということです。年齢が高いほど評価が低くなるということは誰もが予想する通りですが、目・眉・唇など肌の色とのコントラストを高くしただけで、実際には変化していない肌が、いずれの年齢層でもより均一性を増し、シワが目立たなく見えるという結果になりました。

このような肌の見た目の変化は一般に、顔という特別な部位に対する固有の全体的処理モデル(脳の高レベルの処理)を考える立場と、部分的なコントラストゲイン制御によるモデル(脳の低レベルの処理)を考える立場があります。そこで、実験2では実験1で使用した写真を上下逆さまにして提示し、同様の手続きで実験を行ったところ、実験1と同様の結果が得られました。もし、顔固有の総体的処理が行われたと仮定するのであれば、上下反転させることにより、顔としての認識が妨げられ(サッチャー錯視等)、実験1とは異なった結果になることが予想されますが、そうはなりませんでした。また実験4では、顔全体ではなく、肌の一部を提示刺激として用いた実験でも同様の結果が得られ、顔固有の総体的な処理モデルではなく、コントラストゲインによるモデルと一致していました。

このコントラスト効果は顔固有のものではないので、目や口などの顔の特徴以外のものでも、顔の肌とのコントラストを制御することで、肌の見た目を変化させることができるということになります。
でも、こんなことは普段からお化粧をされている方々にとっては、あたり前のことなのかも知れませんね。

図1 肌の均一性とシワの評価〔Russell et al. (2019)*1より作成〕

Reference
1. Russell, R., Batres, C., Jones , A. L., Porcheron, A. (2019).,DA role for contrast gain control in skin appearance.Journal of Vision, 19(3), 1-11

〈江森 敏夫〉