一般財団法人日本色彩研究所

<研究1部報>亭主が働かないのは…

pen COLOR No.159掲載

皆さんの周りに「うちの亭主は子供がいるのに、働きが悪い」とか「子供の面倒を見てくれない」などと愚痴をこぼされている方はいませんか?その原因はもしかすると……。
これまでにもオスがメスの気を引くために様々な示威行為をしたり、メスによる選り好みという性淘汰の圧力に晒されて、オスが形態まで変化させている例は数多く報告されてきましたが、メスの魅力に対するオスの反応を観察した研究はほとんど見られませんでした。しかし、昨年オンライン学術誌「Frontiers in Zoology」に掲載された論文で、アオガラ(blue tit)のオスはペアとなったメスの美しさにより、父性投資(雛への餌やりなど)を変化させることが報告されました1)
アオガラはヨーロッパからアフリカ北部にかけての広葉樹の雑木林などに生息する、日本の雀よりもやや小型(体長約11㎝)のスズメ目シジュウカラ科に属する小鳥で、青と黄色の羽毛に覆われた可愛らしい外観をしています。アオガラの頭部には紫外線を反射する青い羽毛が生えていているのですが、衛生状態の悪化、寄生虫などの影響、健康状態の低下などにより、頭部の羽毛からの紫外線反射は減少するので、紫外線反射量は彼らの健康状態や遺伝子の強靭さなどを示すモノサシとして、彼らの魅力を形成する重要な要因となっています。

アオガラ (Photo of blue tits from Wikimedia commons)

過去の研究2)などで、アオガラのメスが頭部の紫外線反射をオスの遺伝子の優秀さなどを示す指標として使用していること、その優劣によって雛たちへの投資を加減していることが知られていましたが、オスについては分かっていませんでした。そこで、オーストリアのウィーンにあるコンラート・ローレンツ動物行動学研究所(Konrad Lorenz Institute for Ethology)の研究チームは、雛を育てているペアを実験群とコントロール群に分け、実験群ペアのメスには頭部の紫外線を反射する青い羽毛部分に紫外線反射を抑制する成分を混ぜたオイルを塗り、コントロール群ペアのメスにはオイルのみを塗り、オスの行動を観察しました。その結果によると、紫外線の反射を押さえた実験群のメスとペアになっていたオスは、コントロール群のオスに比べて雛に餌を運ぶ回数が有意に減少しました(fig. 1)。

fig. 1 メスの紫外線反射量が餌を運ぶ回数に及ぼした効果
K. Mahr et. al.(2012)より作成

メスの紫外線反射量が急に減少したということは、健康状態の悪化などが予想され、現在育てている雛の養育を十分にできず、子供の成長や健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。もしそうなら、今回の子育ては手を抜いておいて、より望ましい相手とペアになった時のために体力などを温存しようとすると考えられます。このような、番いになった相手の魅力や質によって、子供に対する世話といった親としての投資を変化させるという仮説は、”Differential Allocation Hypothesis (DAH)”として知られ、多くの研究が行われています。
私たちは普通、アオガラのように毎シーズン相手を変えることができるわけではないし、人間の子育てにDAHが当てはまるという確かな証拠があるわけではありませんが、パートナーの輝き(魅力)が失われると、「仕事にも子育てにも気合が入らない」というのは分かるような気もしませんか。ご亭主を働かせるにはあなたが輝いていないと…。

Reference
1. Katharina Mahr, Matteo Griggio, Michela Granatiero and Herbert Hoi. Female attractiveness affects paternal investment: experimental evidence for male differential allocation in blue tits. Frontiers in Zoology, 2012, pp. 9-14
2. Tobias Limbourg, A. Christa Mateman, Staffan Andersson, and C. M. Lessels. Female blue tits adjust parental effort to manipulated male UV attractiveness. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 2004, 271: pp. 1903-1908.

〈江森 敏夫〉