一般財団法人日本色彩研究所

<研究1部報>お皿でダイエット?

pen COLOR No.158掲載

2008年度からスタートしたメタボ検診で腹回りのサイズを指摘され、ダイエットに取り組んでいる方も少なくないと思いますが、今回は簡単にできるダイエット方法を一つご紹介します。その方法は、ずばり、今使っているお皿を替えることです。
Van IttersumとWansinkの報告によると、お皿の大きさや色を変えることで、食べる量を減らすことができるということなのです。彼らは先ず、お皿の大きさに注目し、ディナープレートの平均サイズは、1900年頃に比べおよそ23%増加していることを指摘しました。そして、もしそれにより毎日50kcal余計に摂取していたとすると、年間約2.3㎏ずつ体重が増えていくと述べています。ちなみに、50kcalはポテトチップ10g(約5~7枚)で、それを消費するには女性(52kg)10.4分、男性(65kg)8.3分のウォーキングが必要なエネルギー量です。

お皿のサイズの効果を調べるため、225人の学生(女性44.9%、平均年齢21.1歳)を対象に調査を行いました。この実験に使用されたスープ皿は、標準直径を中心に、直径が大きいもの3段階、直径が小さいもの3段階、計7種類です。参加者はいずれかの直径のスープ皿を渡されて、特定の直径になるようにトマトスープをスープ皿に注ぐよう求められました。すると、小さなサイズのスープ皿には特定の直径よりも少なく、大きなサイズのスープ皿にはより大きくなるようにスープを注ぐという結果になりました。これは、デルブーフの錯視*が作用していると考えられました。この錯視の影響で、スープを同じ直径にすると、小さいスープ皿では大きく見えるので、スープを多く注ぎすぎたように感じられ、少なめにします。逆に、大きなスープ皿では小さく見えるので、スープを少なく注いだように感じられ、多めにすることになります。スープ量の増減は、スープ皿とスープの直径による錯視量と反比例していることが確認されました。
追加の実験で、スープの直径に注意を十分に向けさせたり、デルブーフの錯視効果などを事前に解説したりしても、あまり効果的ではありませんでした。そうだとすると、ダイエットのためには、あれこれ意識したり考えたりしてもしょうがないので、普段使用しているお皿を全て小さなものに替えてしまえば簡単です。

さらに、お皿の色を変えてみるのも効果的でした。同じ大きさのホワイトとダークレッドのお皿が用意され、調査の参加者はそのいずれかのお皿を渡され、ホワイトソースか、レッドソースのパスタをお皿の上に自分で取り分けました。その結果を平均してみると、パスタとお皿の色のコントラストが大きい場合、つまり、白皿にレッドソース、赤皿にホワイトソースを組み合わせた場合、20%以上も取り分ける量が減少していました。なお、この調査は実験室ではなく、大学の同窓会のランチで調査したもので、参加者は調査されていることに気づいていませんでした。
このように、お皿のサイズや色で食べる量を多少なりともコントロールできることが分かりました。もちろん、消費量を減らすだけではなく、少食でもっと栄養を取らなければならない人には、大きなお皿を利用したり、野菜をもっと摂らなければならない場合には、野菜の色とコントラストの低いお皿を選んだりすることも可能でしょう。
いずれにせよ、食事の量をうまくコントロールして、健康的面だけでなく、コストやムダを省くことで家計にも、延いては環境にも優しい食生活のためにも、お皿ダイエットいかがでしょうか?

図の左右の黒い円を比べてみると、右側の黒い円は左側よりも大きく見えますが、実際は同じ大きさです。ご紹介した論文では、内側の黒い円がスープ、外側の円がスープ皿の外枠に相当します。
この錯視はベルギーの哲学者デルブーフが1865年に考案したと言われています。この錯視では、回りをとても大きい円で囲むと、中心の円は小さく(内円の過小視)、逆に回りを同じような大きさの円で囲むと、中心の円が大きく(内円の過大視)見えます。

Reference
・Van Ittersum, Koert and Brian Wansink (2012), Plate Size and Colour Suggestibility: The Delboeuf Illusion’s Bias on Serving and Eating Behavior, Journal of Consumer Research, 39, 215-228.

〈江森 敏夫〉