環境の色 -江戸川区の景観を事例に考える-
COLOR No.158掲載
現在私は景観審議会のメンバーとして、江戸川区の良好な景観を形成していく活動に協力させていただいている。この活動の一環になるが、以前江戸川区の色彩をテーマにしたワークショップとして、区内の環境を色に注目しながら散策したことがある。その時感じた生活環境の色について述べてみたい。
時間の制約で江戸川区全域を見たわけではないが、ワークショップのための事前調査として一人で回ったところを含めると、区内の景観的特徴はある程度把握したと思っている。
その中で、江戸川区の景観として気に入ったところを幾つかあげてみよう。
河川景観や臨海景観
江戸川区の景観的特徴の一つは水平に広がる地形で、その典型が江戸川河川敷や葛西臨海公園であろう。開放的で広く続く空、遮るもののない空間、そこには光や大気が作り出す空の色が時々刻々と変容していく。
農の景観
江戸川区には意外と農地が多い。小松菜の市町村別収穫量では日本一らしい。地域景観色のベースの一つとして、農地の土の色をあげることができる。土と農作物の配色は景観色彩調和の原点といえるであろう。土の色に近似した壁面は樹木の緑を最も自然な表情で見せてくれる。
路地裏の景観
民家が密集した地域は細い路地が多いが、歩いていると懐かしさにホッとする。住民の日常生活におけるきめ細やかな心遣いを感じさせる。生垣や大谷石の塀、丹念に育てた鉢植えなどは、近景で見るとその質感や印影などによって味わい深い。
伝統的建造物のある景観
区内には伝統的な建造物も多い。自然素材の部材が多いので伝統色名で呼べる色も多い。ざっと拾っただけでも、海老茶、こげ茶、煤竹色、江戸茶、銀鼠、江戸鼠、利休鼠、緑青などがあげられた。
親水公園・親水緑道の景観
多くの親水公園と親水緑道がある。間近に観察する種々の緑や幹の色・季節を彩る花の色はさまざまな質感を伴い、触覚的な安らぎを覚える。また水に目を向けると、水中の石、土、魚、水面への映り込み、水の流れなどにより、透明感を伴った色が見る者の動きとともに変化し、ゆったりとした時間の流れを感じさせる。
このように、気に入った色彩景観をあげていくと、視覚というより五感を総合した体験が好感のもてる色彩景観につながっている。
一方で、気に入らない色使いをあげてみると、これはどこに行っても少なからず感じるところだが、周囲の好感のもてる景観を圧倒的なパワーで阻害している事例である。このような事例が多くなると、わがままな色遣いの競い合いといった様子で、賑わいというより煩雑な印象が強い。
そのような色のパワーを目の当たりにすると、景観計画の一環として色彩規制によるガイドラインを策定することも、これが一定の効果をあげるであろうことも理解できる。しかし、これだけのパワーを発揮する色である。色の魅力を存分に活用し、活気がありデザイン力を感じさせる景観の実現は可能だろう。
良好な景観が色を意識しない景観であり、良好な景観を阻害する要因が色彩であるという現実は、色を専門にする者としてはあまりにもさみしい。
これからはネガティブな規制のみに頼ることなく、地域の財産としての色彩景観を形成していくという意識を共有しつつ、色を楽しみながら創造していく小さな経験を積み重ねていくことが大切だと考えている。
〈赤木 重文〉