<研究1部報>Image is everything!!
COLOR No.150掲載
英語の古い格言”Image is everything”、まさに日本語でいえば”見た目が全て”はツバメにとっては厳しい現実となっているようです。繁殖を行うオスにとって、自分の子孫を残せるかどうかは見た目の良さにかかっているのです。
鳥たちは自分の健康と繁殖能力の高さの象徴である羽根の色の濃さでパートナーを引き付けいるそうで、オスの羽根の色が良くなると繁殖に成功しやすくなるという報告があります。コロラド大学の生態学者、R.サフラン氏とそのチームは無害のインクで羽根の色を改善するだけで、役立たずのオスから精力的なオスにすっかり変えることができました。羽根に魔法をかけられた鳥たちは、羽根がそのままにされた鳥たちよりもモテるようになったばかりではなく、羽根色が改善されたオスは、同じメスをパートナーとした場合でも、前回の繁殖期よりも多くの子供を産ませることができました。昔から多くの鳥類が一夫一婦制のように考えられてきましたが、どうもそうではないらしく、ツバメのメスはオスを絶えず評価をしており、色の濃さがある水準よりも低下してしまったオスはメスから見限られてしまうことがあるようです。
また、最近の研究によると、色の濃いオスのツバメはメスからモテるので、他のオスの嫉妬の対象となるそうです。そうした競争相手からの刺激が色の濃いオスのテストステロンの急増をもたらすことが、人工的に着色したオスの調査から明らかになったそうです。これ以前に、生まれつき色の濃いオスほどテストステロンレベルが高いことは知られていました。テストステロンは男性ホルモンの一種で、闘争や浮気などの興奮状態で分泌が促進されます。着色されたオスは、自分の見た目を判断することはできませんから、オスの外見と地位の向上は他の個体からの反応によるということで、個体の相互作用の変化がその行動だけではなく、生理機能にも深い影響を与えることが報告されています。
ツバメに関して言えば、さらに大切なものが尾羽です。ここで問題となるのは、尾羽の両端に伸びた長い部分のことです。もともとオスのツバメはメスに比べて長い尾羽を持っているのですが、P. A. メーラーによると、尾羽の長さによってモテ方が違ってくるそうです。オスの尾羽を切ったり、貼ったりして、尾羽の長いオス、短いオス、普通のオスを作って比べると、尾羽の長いオスはよくモテるのですが、短いオスはあまりモテませんでした。さらに、ペア外交尾(extra-pair copulation、つまり浮気)は尾羽が長くないと成功しなかったということです。
尾羽については長さだけでなく、シンメトリー(symmetry)も重要なチェックポイントとなっているようです。P. A. メーラーは長さの条件に加えて、シンメトリーの条件を加えて実験を行いました。その結果、尾羽の長いオスは短いオスよりもモテることは長さ条件の場合と同様ですが、さらにシンメトリーの効果はてきめんで、シンメトリーの程度が高いほどパートナーを見つけやすいことがわかりました。尾が長くてシンメトリーなオスが最高にモテたのは言うまでもないのですが、相対的にモテなかった尾の短い雄の間でもシンメトリーの効果が確認されたそうです。ちなみに、多くの生物の体はシンメトリーの構造を持っているのですが、実際には理想のシンメトリーからのズレが生じます。このような理想的な対象性からのずれは「対象性のゆらぎ(fluctuating asymmetry、 FA)」と呼ばれています。
ツバメの尾羽の長さやシンメトリーは発生時や換羽時の事故、疾病、寄生虫などのさまざまな悪条件に左右されてしまいます。もし、尾羽の長さが十分に長く、しかも素晴らしくシンメトリーである個体がいたとすれば、その個体はこれら悪条件を寄せ付けない、または、被った悪条件を十分克服するだけの強さを遺伝的に持っている証拠かもしれません。そこでメスは配偶者の選択をする場合、オス尾羽のこれらの特徴を注目しているかもしれないのです。これらのことに関しては、まだ多くの議論の余地があるようで、今後の研究でいろいろ明らかになってくるのでしょう。
これらの結果をヒトという生物種に引き寄せて考えることはいろいろ問題もあり、危険かもしれませんが、世の女性たちにもパートナーを選択する際に、意識的にせよ無意識的にせよ、見た目の良さを重視するものなのでしょうか。筆者がかつてモテた例がないということは、あながち女性の選択は間違っていないということでしょう。
〈研究第1部 江森 敏夫〉
【参考文献】
Brian Handwerk, Sex Study: Flashy Feathers Cause Female Swallows to Cheat, National Geographic News, September 29, 2005.
Brian Handwerk, “Makeover” Birds Get Testosterone Jolt, National Geographic News, June 9, 2008.
長谷川眞理子, 科学の目 科学の心, 岩波新書, 1999
竹内久美子, シンメトリーな男, 新潮社, 2000