一般財団法人日本色彩研究所

<研究1部報>日中韓の色名に見られる特徴-色名事典の入稿を終えて-

pen COLOR No.148掲載

当研究所編著による「日中韓 常用色名小事典」の制作作業も大詰めを迎え、11月末の刊行に向けた最終調整に入った。本稿では、この制作過程を通して、 現代の日中韓で使用されている色名に、どのような特徴がみられるのかについて気づいたことを述べておきたい。

中国の色名

3カ国の常用色名を選定する際の参考に、日中韓の若者が思いつく色名について合計1,336名を対象に調査をかけた。その結果、中国では基本色名の前に色の調子を表す文字を組み合わせた色名の回答がかなり多かった。色調を表す語ごとに、色名想起の上位200位中の回答数を( )内に示すと、浅(8)、深(8)、淡(7)、粉(6)、暗(4)となる。一例ずつ挙げると、浅红(ピンク)、深褐(深みのある褐色)、淡黄(明るい黄)、粉紫(浅い紫)、暗红(暗い赤)などがある。他にも、”中”が頭につくと典型的なという意味になり、中红は典型的な赤色を指す。
つまり、中国では、修飾語+基本色名という系統色名の構成を持ち名詞化された色名が多い。日本ではそのタイプは少なく、 上位200語中には、”薄”がついた、薄緑、薄紫、薄ピンク、薄茶と、”濃”の濃紺のみで、韓国でも深みを表す진(ジン)のついた、深みのあるピンク 진분홍(ジンブンホン)、深みの青を示す 진하늘(ジンハヌル)などで、こちらも数は少ない。
長い歴史を持つ中国では、膨大な数の伝統色名が『色譜』などの色名資料に残されているが、伝統色名に対する現代中国の一般の人々の認知度は低いようである。
また、日本の固有色名は、桜色、バラ色のように、由来対象物+”色”という形のものが多いのに対し、中国では瑰红はバラ+赤というように、由来対象物+基本色名とした構成のものが多いのが特徴である。
日本と中国の色名には共通のものが多い。黄、黄緑、灰、褐色、金、栗色、群青、紫、朱、青、青緑、赤、茶、土、白、橙、黑、紅、蓝などが中国伝来の色名である。

韓国の色名

韓国では、同じ色を表す色名に、漢字由来、韓国古来のもの、英語など欧米からのものがある。例えば「白い色」を表す言葉には複数あり、色名や絵具の白を表す 하양(ハヤン)、白いという形容詞から作られた 흰색(ヒンセク)、漢字の”白色”の音読みの 백색(ベクセク)、それに英語色名whiteの読みのハングル表示 화이트。 同様のことが緑など基本的な色名にみられる。
近年韓国では、色名の規格に関する検討が積極的に進められている。韓国の産業規格(KS)に収録された慣用色名は2003年の改訂に続き、 認知度が高いという理由から2005年に新たにKSに採用された수박색(スイカ色)、 자두색(スモモ色)、 메론(メロン色)などは、 色名想起調査でも想起率が高かったため本書に収録されている。逆に日本式の色名のためKSには無い 곤색(ゴンセク紺色)や 연지(ヨンジ臙脂)はよく知られているため採択した。中国の国家基準(GB)には基本色名の規格はあるが(GB/T 15608-1995)、慣用色名についての規格はないようである。

日本の色名

本書のサンプル

一点のみ指摘しておく。暮らしの中で使用されている色名の最大の特徴は、欧米の色名を、すぐにカタカナ外来語として取り込み、日本語化した外来色名にするということである。想起色名200位までのうち日本古来の色名は43%と過半数に満たず、57%が外来色名であった。中国では、想起200位までの外来色名としては巧克力(チョコレート)、珈琲(コーヒー)のみである。

最後になるが、今回、中国や韓国の人々と色名に関する話をした際に、色名が示す色についての個人差が日本人よりも大きそうな印象を持った。データを取ったわけではないので何となくの印象ではあるが。

〈名取和幸〉