<研究2部報>雑記:「鳥類の色覚」
COLOR No.146掲載
鳥類の色覚は「4色型色覚」であり、近紫外線領域を含むという。近紫外線領域を鳥類はどのように役立てているのであろうか?日経サイエンス10月号、「鳥たちが見る色鮮やかな世界」T.H.ゴールドスミス(エール大学)の記事を参考にさせていただいた。
「紫外線領域の色覚」と「オスの選択」
健康な人は、肌が艶やかで美しいものである。これは鳥の世界にも当てはまる。羽毛が艶やかで美しく輝いている鳥は、健康状態が良いというのである。
ジョージア大学とオーバーン大学のカイザーとヒルによるルリイカルの研究がある。(ルリイカルの英名は、ブルー・グロスビーク。アメリカ南部に生息するスズメ目。オスは青い羽根が特徴的である。)健康なオスが持つ青い羽は紫外線反射が強く、メスが選択する際の判断基準となるのである。そのようなオスは、大きな体と獲物の豊富な広い縄張りを持っており、ヒナに対して頻繁にエサを与えていることが分かったという。羽毛を顕微鏡レベルで観察すると微細構造が見えてくる。不健康では、微細構造が崩れているため、紫外線反射が十分行われない。メスは紫外線領域で、オスの選択を行っているというのである。
ルリイカルの場合、オスは青・メスは茶の羽をもっており人間の目にも判断がつきやすい。ところが、スズメのように、人間には同じように見える鳥も多い。そこでミネソタ大学のイートンは、人間には同じように見える139種の鳥について羽毛の紫外線反射率を調べた。すると90%以上の種類でオスとメスの違いが見られた。鳥はオスとメスの違いを紫外線反射率の大きさにより識別していると考えたのである。
ハウスマンと国際研究チームによる、オーストラリアの鳥類108種のオスを対象とした研究もある。羽毛の中で求愛ディスプレーに関わる部位は、より大きな紫外線反射が見られたという。
英国、スウェーデン、フランスの複数の研究グループは、アオシジュウカラとムクドリの調査を行った。そして、紫外線反射率の大きなオスにメスがひかれることを示したのである。
「紫外線領域で探すエサの在処」
エサとなる植物は、受粉や種子の広範囲への拡散の為に動物を利用していることが多い。動物に花の蜜を与える際、花粉を付着させる事で他の花への受粉を行なわせる。果実を与える事で、中の種子を遠くに運ばせたりもする。果実は食べられても種子は消化される事無く、鳥の糞と共に遠い場所で排出され植物の勢力拡大につながるのである。
ドイツのレーゲンスブルク大学のブルクハルトは、多くの果実やイチゴ類に見られる表面の蝋の様なテカリが存在アピールに使われている可能性を示した。このようなテカリは、紫外線領域を大変良く反射する性質がある。紫外線領域の見える鳥類にとって、エサの在処を示す事になるのである。
花の蜜を探すために、紫外線領域の反射を利用する鳥として有名なのはハチドリである。ハチドリは長いくちばしを持ち、舌を伸ばして花の蜜をエサとしている。人間が見ると何の変哲もない花でも、紫外線領域では違った見えを持っている。花弁の周囲は紫外線領域で大変よく反射しており、蜜をエサとする動物の目印となっている。このような花の目印は「ハニーガイド」と呼ばれており、これを目標としてハチドリはエサの在処を探しているのである。
以上は、捕食されることを意図的に行っている植物側からのアピール例である。
しかし、意図せずアピールを行ってしまっている動物の例もある。ハタネズミによるマーキングである。マーキングは、自分の勢力範囲を仲間に知らせるために行われる行為である。これを紫外線領域で見ると、紫外線が良く反射されるという。フィンランドにあるユバスキュラ大学のビータラのグループによって、チョウゲンボウと呼ばれるハヤブサの仲間に関する研究がある。エサとなるハタネズミのマーキングを目印として、捕食を行っているというのだ。ハタネズミにとって、マーキングに使う糞や尿は勢力範囲を示すニオイの目印でしかない。しかし、チョウゲンボウにとってはエサの在処をアピールしている様に見えるのである。マーキングの糞や尿は、紫外線領域で強い反射を示す。その反射をチョウゲンボウは辿るのである。マーキングの先にエサが見つかるのである。何とも気の毒なのはハタネズミである。仲間に知らせる手段のマーキングが、エサとしての自分をアピールする事になっているのだから。
このように、鳥類は紫外線領域の色覚を生かしてパートナー探しやエサの獲得などに役立てているという。鳥類の色覚世界は、何とも興味深いものである。
〈研究第2部 那須野信行〉