<研究1部報>グッド・ペインティング・カラーの審査に参加して
COLOR No.145掲載
美しく快適な環境形成に果たす「色彩の役割」については、随分以前から叫ばれるようになり、色彩を用いて美的環境を創造するという社会的な取り組みも見られるようになりました。しかし、日々の生活の中で、たまたま出会う色彩環境に大きく失望してしまうケースも少なくありません。職業柄、腹立たしい気持ちになることもあります。騒々しい色で周辺景観を台無しにしている事例ばかりが目につき、周辺景観にうまく溶け込んでいるものは、目にとまりにくいことが、色彩の特徴なのでしょうか。実際に、建築家やデザイナーの中には、色彩はじゃまになるのであえて施さないと主張する人もいます。しかしこのような引き算的発想も、色彩を専門とする者にとってはどこか納得できません。
良好と感じさせる色彩は、融和的な色彩であっても目をとめる力があり、しばし見入られるケースもあります。騒々しい色ばかりが目に付くというのは、世の中の色彩に対する意識の多くは「目立たせるための道具」であり、目立たせるためだけに無計画に色彩を用いる事例が多いからでしょう。
しかし、一方で心地よい環境の創造に色彩を活用する事例も徐々に見られるようになりました。良好な色彩環境は社会の基盤であり財産となります。もっともっとこのようなケースが増えて欲しいと感じている昨今です。
そんな矢先、グットペインティングカラーコンペの審査に参加させていただく機会を得ました。このコンペは、(社)日本塗料協会など塗料関連4団体で構成する委員会が主催するもので、「塗料による優れた社会への貢献を顕彰する公開コンペ」です。今回で第8回となります。
すべての作品を見せていただいて感じたのは、多くの応募者の色彩に対する共通の思いや姿勢です。色彩の表現性と調和性のバランスを取りながらプランニングしていこうとする姿勢です。対象物の用途や地域性によってその重みを変えていくという的確な判断も見えてきます。
応募作品、特に受賞作品の設計結果及びプロセスから、多くのことを学ぶことができます。このようなコンペを通して、良好な色彩環境が当たり前となる日がくるのは、そんなに遠くないことかもしれません。
〈研究第1部 赤木重文〉