一般財団法人日本色彩研究所

<研究2部報>環境と色見本

pen COLOR No.144掲載

近年、環境保護や身体蓄積による健康への影響など、地球や人類の未来への懸念から、化学物質の使用に関し様々な規制が行われつつあり、国内では化学物質による環境汚染防止のため「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(略称:化学物質排出把握管理促進法または化管法」が施行され、数百に上る特定化学物質の把握、公開、届け出が義務化されています。
しかしこの法律は主に原材料メーカーが対象であり、個人消費者向けの製品については特に規制や罰則は無く、指導・目標的な色合いが濃いのが現状ですが、企業にとっては企業イメージ向上の観点から積極的に取り組んでいる印象があります。

一方海外では、欧州においてはRoHS指令にもとづき、2006年7月1日より6有害物質(鉛、カドミウム、6価クロム、ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニール、エーテル)を使用した電気・電子製品は流通が禁止されます。このため、輸出品の製造企業も製品からこれら6物質を排除することが緊急の課題となっています。

また、塗料メーカーでも、6有害物質を排除する動きが業界に生じており、塗料メーカーの業界団体である日本塗料工業会が発行する「塗料用標準色」も近年中に対策が完了するようです。

前述の6有害物質のうち、塗料に含まれる可能性があるものは鉛、カドミウム、6価クロムの3種で、カドミウム、クロムは赤系や黄系の顔料に、鉛はカドミウムなどと化合していることが多い物質です。これらの物質はクロムイエロー、カドミウムイエロー、カドミウムレッドなど顔料の名称になっているものも多く古くからよく使われていた顔料成分です。これらの顔料を含む塗装色は赤系、橙系、黄系に加え、色味調整用に紫系や緑系に使われることもあります。ただ、以前から減少傾向に有り、最近ではほぼ赤系、橙系、黄系に限定されています。

色見本の作成に用いる塗料の変更にはいくつかの問題があります。その一つは色域であり、一般的に色域が狭くなる傾向があり、従来作成できた色が再現できないことが起こります。黄原色に白塗料や黒塗料を混ぜた場合の例を図に示します。図1や図2に示すように高彩度域で色域が狭く、色相がわずかにずれていることが分かります。2つ目の問題は分光反射率です。図3に示すように曲線が交差していたり、起伏が生じたりしているため、条件等色が発生することがあります。これらの問題点を把握した上で原材料の変更を行わなければなりません。

当研究所でも、各種の色見本の作成に用いられている塗料について2002年頃から、これら3物質を含まない塗料について検討を行い、現在では「継続的に且つ、仕様書に基づいて製作されている色見本」など上記の問題が重用視される一部を除いて切り替えが終わっています。

〈研究第2部 小林信治〉

図1 塗料による色域の違いの例(1)
図1 塗料による色域の違いの例(2)
図3 分光反射率分布の違い